気付かれないようにロッカーまで進む。
寝心地を確かめてから枕を置くとそこはもう生活空間。
その間にも彼が鍛えているダンベルの音が絶え間なく聞こえる。
その度に彼の裸体がふわふわと浮かぶ。
こんなのじゃ寝れない。
悶々としていると不意にロッカーが開かれる。
誰も使っていないロッカーなのだが。
「ロッカーにまで寝んのかよ」
やれやれな顔が出ている。
しかし、例えローだろうと退かない。
「なに」
なんらかの用だろうかと尋ねる。
「別に」
彼は短く答えるとこちらを覗き込む仕草をし、目前まで迫る。
「なに」
だから、なんなのだと。
「ちょっとは動揺しとけよ」
からかっただけらしい。
彼から見る性格では想像も出来なかった。
「私なんて論外でしょ」
こんな、眠ってばかりでお風呂だって面倒臭がるのに。
「おれは無法者だ。枠に捕らわれるとでも?」
「もう、冗談なのは分かったから。もう良いでしょ」
冗談に付き合った。
彼はロッカーの内側に手を付く。
「ロッカー、狭いな」
彼はそう言うとリーシャを立たせて己すらもすらりと入る。
いや、洒落にならない程ギチギチだ。
しかも、相手はついさっきまで運動をしていて、しっとりとした体と汗の匂いが近すぎる。
「せま」
思わず呻く。
「狭いな」
入った癖にそんなことを言う。
しかし、口調とは裏腹に扉をガタンと閉める。
真っ暗になった。
「なんのつもり」
狭いし何も利点がない。
あと、眠れもしない。
「お前の寝床を共有してる」
彼はくつりと確信犯な態度で堂々と居座る。
というか、恋仲でもないレベルの二人がここに収まり続けるのは問題過ぎる。
「あの。私が出るから貴方はここに居れば良いよ」
おずおずと進言する。
狭いし、寝れないしとのコンボなので、泣く泣く手放すしかあるまい。
「こんなところでこんなガキの遊びに興じ続けるなんてごめんだ」
が、彼はその気遣いを木っ端微塵にした。
いやいや、そもそもここに無理矢理入っただろうに。
それはこちらの台詞だ。
「お前が出るならおれも出る」
「矛盾が」
「深い意味があってやってねェもんでな」
ローは狭い中で更にこちらの幅を狭くし始めた。
その最中「動くぞ」と良いながら徐々にこちらの余裕のない箇所がもっと無くなる。
痛くないけど狭くて身動きがとれん。
「や、狭い」
言葉も発するのが難しく、最早ちょっとすら動けない。
彼の腹筋っぽい場所に頬がべったりつく。
むわっとする汗くささに赤面する。
ここが真っ暗闇で大変都合が良い。
「せんちょーさん。息苦しい」
「呂律が拙い」
そりゃ、口がロッカーと彼で挟まってるし。
「動けない」
彼はなんとでもない風に断言する。
なんか怪しい。
さっきまで動いてたもん。
「ちょ、嘘でしょ。絶対動かせる」
「いや、無理だな。ほら」
と、言いつつ更に密着させる。