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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -
枕が愛用品なのは至極当然。
だから、常に品質の良い枕がほしい。
でも、今のこの状況は違うと思うんだ。

「ふわふわのヤツが欲しいんならくれてやる。これを食ったらな」

顎を刺青の入った指先が痛いくらいにグイッと挟んでおり、まるで固定されているようだ。
いや、勘違いではない。
正真正銘、されている。
ふかふかな枕が欲しいなと何気なく呟いたら船で伝線してローまで届いてしまうというびっくりな展開になった。
そして、枕が欲しければ対価を差し出せと言わんばかりにご飯を突っ込まれている。
何故船長様直々に出張ってくるのか分からない。
普通、彼以外がやるのだと思う。
暇なのかもしれんな。
ぽややんと想像しているとデザートのチョコレートフォンデュも突っ込まれた。
あらら、気付かない間にもうご飯を食べ終えていたとは。
気付かないままだったので口が緩んでツゥ、とチョコレートが垂れる。
いけない、ズボンに付いてしまう。
慌てて上を向こうとするとそれよりも早く顎を掴んでいた方の指先で器用に伝った所を辿るように掬い取られる。
ローがわざわざやらなくてもフキンとかタオルを使えば良かったのでは。

「汚いよ」

「こっちの方が早い」

はて、これは聞いたの答えが噛み合っていない。

「それよりも早く噛め」

言われた通りに飲み込んだ。
チョコレートで汚れた指先の行方を気にしていると、それに気付いた彼が面白そうに笑みを浮かべ、急激に血の気が引く。

「あ」

――チロ

真っ赤な真っ赤なタン。
もとい、舌が指先を舐め。

「汚いっ」

眠気でぼんやりしている脳が一気にさめて彼の指先を止める。

「フフ。お前でもそんな反応するんだな」

まぁ、急に女のような扱いをされても困るし、これからもしなくて良い。

「やめて、舐めないで。貴方はそんなことしない方が良い人だから」

どうにかして回避させるために言葉を繋ぐ。
しかし、何故か男の眉間のシワが濃くなる。

「勝手におれの何かを決めるな」

ああ、怒らせた。
言い方が悪かったんだろう。

「ごめん。でも、私の事は放っておいてほしいというか」

クローゼットの中で眠る女が珍しいから目を引いたとしても。

「興味なかったから初めからこんなことしねェんだが。お前はあいつらの事嫌いか」

それは問い掛け。
とても今さらな質問だった。
ここで、嫌いと言えたならどんなに楽だったか。

「どちらかと言えば居心地も良い。貴方も良い人」

「海賊に対してそりゃァ、褒めてねェ」

ローはクククと笑う。
あ、また笑った。
この船に乗り込んでからは見るようになった。
前よりも近しくなっている距離。
それがなんとなくむず痒くて。

「笑うと雰囲気が柔らかくなるね」

当たり前の事を言ったと直ぐに知る。

「男に言うもんじゃねェだろ」

しかし、今度は優しげな雰囲気で言われ安堵する。

「そうかな。そうかも」

こういう受け答えも最近楽しいと感じるようになった。
デザートまできっちり食べさせられ、もう戻っても良いと言われクローゼットへ。

「ぎゃあああ」

男達の悲鳴。
紳士の嗜みの本を読んでいるところに来たから。
他の女達には平気でいるのに。

「別に私は気にしないよ」

「おれらはめっちゃ気にするからっ。他の部屋行ってくれ」

懇願され仕方なく移る。
涙目だった。
そんなに嫌なのだろうか。
誰の部屋に行こうかと悩んでいると船員達が鍛練をしている部屋へ行くことにした。
あそこは皆半裸になって体を鍛えているからクローゼットは無いがロッカーならある。
前々から目を付けていた。
室内へ行くとそこには汗を微量に流す男が一人だけいた。

「珍しいな」

この船の一番偉い男だった。
彼が筋肉質なのは知っていたがこんな風に鍛えているとは知らなかった。
だから、決してわざとそこに来たわけではない。
言い訳がましく言うのはなんの心構えもなく、その肉体を目に晒してしまったからだ。
慣れていないものを写してしまう。
斜めに視線をやり、ちょっと生返事気味に「寝床を探してて」と相手が視界に入らない向きへとなる。