まだぼやけていてぼんやりしているが、室内という事と、騒音が遠い事は分かる。
そんなに頻繁にダッカーの船を詳しく歩き回ったりしないから確実な事は言えないが、ここは見たことがない。
もしかして船長室だからだろうか。
ダッカーは船員を私室に殆ど入れないから情報が出回らない。
アルコールの匂いが仄かにする。
はて、医務室と船長室は距離が離れていた筈。
アルコールでもお酒の方にしては匂いが変だ。
暫く匂いを嗅いでいると時折足音が聞こえる。
目を閉じて少ししてから開ければ視界は通常に戻っていた。
ここは医務室、なのだろうか。
医務室には当然クローゼットがなかった。
リネン室というような本格的なスペースもなかったので泊まる事もなかったから。
清潔感がやたらある。
もしかして、違うかもしれない。
クローゼットに居る事が多い故に足音で大体船員か敵かを区別出来る、多分。
扉を開けないので答え合わせはしないのだ。
今、聞こえている足音はダッカーの船の人達の者ではない。
「今の状況を理解してるか」
突然聞こえてきてビクッと身体が揺れる。
可笑しいな扉空いた音しなかったのに。
「え、なんで」
ローだった。
今は宴をしていた筈じゃ。
喉が少し乾いていたから声が擦りきれた。
「なんで」
また繰り返す。
口にして出さないと整理出来なかった。
もしかして抜けてきたのかな。
でも、ダッカー海賊団の様子が可笑しかった。
「同盟は決裂した」
「けつ、れつ」
決裂した。
裂かれる、決まった。
内容を噛み砕きなんとか理解しようともがく。
「決裂したのなら私は」
何故ここに居るのだろう。
だってここ、恐らくローの船でしょ。
どうして放り込まれたのか。
分からないから知ってそうな相手を見る。
答えをくれるか。
「戦利品」
戦利品、と言葉にならずはくはくと息をする。
戦利品って無機物じゃないの、普通。
「私、人間なんだけど」
くつくつと喉を震わせた男は知っていると肯定する。
殺気もないので殺されるわけではないのかなと予期。
まあ、命の危機を感じたことがないからあくまで未定なのだが。
「戦利品はどうなるの」
出来ればクローゼット行きが良いな。
「おれのもんになるかあいつらに分配される」
悪い顔で言われた。
子供が見たら泣く顔である。
「ムダ毛の処理とかなら出来るけど」
「は?」
多少ならやるよ、という意味を込めて唯一出来そうな事をアピール。
だって皆の足、無造作に生えてるんだから気になっていた。
剃らせて欲しくなる生え方で放置してる。
「足とか特に念入りにするし」
「待て」
止められて頭上へ向くと漸く男が呆気に取られているのを知る。
何か間違えたみたい。
だって、この船の人達はお節介が多いから。
つい心で思ったことをペラペラと言ってしまう。
言っても殺されないと思って。
怒られちゃうかな。
「別に雑用をやらせる為に持ってきたわけじゃねェ。あいつらがお前は残したいと言うから」
そうなのか。
「なら、やっぱりムダ毛の」
「ムダ毛から離れろ」
離れたら何を言えば良いの。
あ、顎?顎なの?
「おれの方は間に合ってる」
思ったことを知られたのか釘を刺された。
「取り合えずあいつらと飯食っとけ」
「え、そんな」
「ダッカー海賊だが。おれ達が憎いか」
それは決裂したからと言いたいのか。
「あの人たち最近やり方が酷くなってて、治安も悪くなってたからごされても仕方なかった。時間の問題だったし」
いずれ海軍も目をつけて干されていただろう。
あ、洗濯物という意味ではない。