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- ナノ -
この水槽がローの持つ水槽と分かったのか疑問に思いながら駆けていた。
後ろには追っ手のローが迫ってきている。
捕まっても後ろめたい事などないし、と困る未来を想像し逃げる事を念頭に置く。
しかし、ここの町には詳しくないし追い込まれる事間違いなしな予感。
軽やかに走れている事実は後から考察するとして、取り敢えず死角に入りクリオネに転じて水槽に出戻る。
直ぐにローは此処へ来て辺りをキョロキョロしてから逃げられたかと舌打ちすると水槽を抱き抱える。
何もされなかったかと問われるが受け答え等無い。
しかし、困ったことになった。
ロー本人から泥棒認定を受けてしまった。
大人しくしていたいが足で歩きたい為に泥棒でも何でも追いかけられる事になったとしても、それでも外に出たい。
どちらも深刻な内容なので譲れないが、ローには悪いが外へ遊びに行かせてもらおう。
気付かれても死角に入りクリオネに戻れば消える女の出来上がり。

「海賊から盗もうなんて良い度胸してやがるっ」

うおう、相当お怒りらしい。
自分を盗むとは変な感じがするけれど、本人に申告するつもりがないので信じ込ませておく。
未だに自分とて人間に変化出来た事は驚いているし、次も変身出来るか分からない。

「もう大丈夫だからな」

怖い思いをしたと思っているローが声を掛けてくるが、少し悪いなと思ったので面倒をかけてすみませんと謝る。
伝わらないが。
彼は踵を返し辺りを警戒して船へ戻った。



また船の上の生活へと戻った。
船の中では迂闊に戻らないように気を付けている。
陸に行ったら成る予定。
水槽の蓋が何故簡単に外れるのかは今も分からないが、分かったところでする事は何も変わらない。
ローから逃げられる程身体が柔軟な理由も結局分からず。

「船長!陸に着きます」

船員の声にピクッとなる。
やった、久々の陸だー。

「前行ってた泥棒の女、流石に居ないよな?」

それにも反応してしまう。
島が違うし、流石にとの言葉にローは居たら居たで斬ると述べる。
斬られてしまうのは困るからっ。

「今回も置いていかなきゃなんねーのがなァ」

名残惜しく目線をやられてふよふよしてクリオネアピールをする。
船員達は見張りをかい潜り船長室に進入して部屋から水槽を持ち出したと結論付けているのだ。
陸に付くとロー達はいつものように言ってしまう。
まだ人間になってはいけない。
初日はロー達も早めに切り上げてくるから。
二時間程して戻ってきたローにやっぱりとなる。
見ていると盗まれていない事に安堵しているので気になって仕方ないのだなと苦笑。
この島のログは二週間と聞いて長いので出歩けると四日目にして漸く人間へと転じた。
ホテルへ泊まっているのでホテルから出ると今度は五百ベリーを持って出掛ける。
本当はローに何か買ってあげたいが渡す方法もないので諦めた。
アイスを買って食べて歩いて食べ終わり食べた後の運動代わりにてくてくと歩く。

「泥棒!死ねっ」

突然の声に振り返ると遠目から男ーーローが刀を振りかぶるのが見えて咄嗟に飛ぶ。
跳躍すると間一髪で範囲外へ飛べたのでスタ!と地面に降りると慌てて走る。
死ねとか言われた怖い。
般若みたいに睨まれてうわうわと情け無い動作で死角を見つける。
確かに唯一の家族であるクリオネを盗み持ち出している悪女なのだから鬼気迫る事は何ら可笑しくないが。
今日はここまでだとクリオネになり水槽へポトンと落ちる。
間一髪な差でやってきたローは辺りを見回してまた逃げた、チッと舌を打ちソッと水槽を取る。

「何故これを盗るんだ」

ローの船にはお宝が積んであるのでその疑問は当たり前に湧く。
しかも二度目だ。

「次合ったら絶対ェヤる」

青筋の浮かぶこめかみ。
お願いだからお手柔らかにね。
それにしてもとローは呟く。

「どうやっておれの部屋に侵入を…………何かの能力か………?」

まあそう辿り着くだろうなという推理だ。
それからというもの、島に着いてはバレて追いかけられを数回繰り返した。
それが変化したのは一年くらい経過した時だ。
ある日、ローに真っ黒の布を掛けられて、もう歳だから日光を避ける為だと。
そんなの歳じゃないしと思いながら人間に転じるとワンピースでなくハートの海賊団の団服を着た姿になる。
此処最近、町に出るのが難しくなり、上げ底ブーツと付け髭と目深い帽子にブカブカのツナギ。
女だとバレずに溶け込めるかもと一度試したら多分溶け込めた。
甲板に行かず厨房に行くからローにもバレずにいられている。
よし、これで準備は万端だ。
嬉々として部屋から出ると辺りを見回して人が居ない内にササッと廊下に行く。
今日もジャガイモを剥こう。
コックさん甘いものくれるからね。


***


お察しside


男がモニターを見て見事な皺を眉間に作っていた。

「船長…………」

気まずそうに声を掛けてくるクルーに応える気も無くなっていた。
今映し出されている光景が覆しようがない。
今回が初めてではなく、何ヶ月も似たものを見ているので衝撃は無い。
しかし、長年共に居た存在が擬人化したという事実は確実に己を動揺させ、先行きの不明な思考を抱かせていた。

「取り敢えず」

漸く長の発言に彼らは面を上げて今か今かと待つ。

「捕縛しても傷つけるな」

良い策も今は思いつかない。
そう結論が出るのは至極当然の流れであった。