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月日が少し経過した。
現在の状況を実況しようと思う。
このまま穏やかにローやラミが結婚したり子供を産んだりするのを見届けるのかと描いていた未来は潰えてしまった。
白い町、この白さはファンタジーだからではなかったのだ。
毒の方の白さと知った時、もう何もかもが変わっていた。
パパもママもラミも町の皆も居なくなった。
全てを無に返すとは正にこの事。
ローは意識していたか分からないがずっと水槽を抱えながら練り歩いていたからリーシャも助かった。
けれど、傍から見ていたローは変わってしまった。
見届けるのがこんなに辛い事だなんて。
死体だらけの船に乗っても何一つ表情が動かなくなってしまった。
流石に海に捨てられてはしまうかもと思ったが予想に憚らず捨てる事はされなかった。
捨てられても生きられる自信はないけれど。
そうして辿り着いたのは最悪の出会い。
悪名高き海賊と町の人達は言っていたがローはそこに向かってなんと手榴弾を付けて向かった。
何故かリーシャも持って行ったのでここまでの命かと覚悟を決めた。
だが、そこで運命は交差し、彼の人生は変な感じで曲がった。
どうやら彼の寿命は後僅かのようだ。
そんなのは予想できていたが、彼が元気だから考えないようにしていた。
ちゃぷんと音を立てると笑みは浮かべないが抱え込まれて膝の間に納められる。
何も宿していない瞳。
最近はドンキホーテ海賊団に加入したらしい。
荒事をしては帰ってくる日々を迎えている。
餌もちゃんとしてくれる。
此処最近は話しかけてくれるようにもなった。
少し表情が増えたかも。
誕生日を迎えると肌に白い例の模様が浮かんだ。

(眠い)

あまり動く時間が少なくなってきた。
もしかして寿命?死期?なんて浮かぶ。
やっと寿命がきたのかと呆れる程長く生きた。

「餌食わねーのか」

話しかけられて顔を上げるとローが心配している顔で立っていた。
嗚呼、ご飯くれたのね。
いやいや、食べるよとぱくりぱくりと食べる。
動きも鈍いしダルい。

「おれを置いていくな、置いていくなよ」

どこか遠くに聞こえたその言葉はとても悲しくて胸がズキズキと傷んだ。



目を開けると眠っているローが見えた。
いつの間にか寝てしまったみたいだ。
意識が薄らいでいるままにローの顔を覗こうと無謀な真似を考えているとスウウ、と浮いた感覚と共にローの顔が近付いた。
何気に出来た事が驚きで言葉を失う。
手足を見ると薄くぼんやりしている。
幽霊にでもなった気分だ。
もしかしてクリオネは死んだのかと水槽を見るとぷかぷかとピクリともせず水の中を漂っていて肉体が死滅したのかと首を傾げる。
どちらかというまだ生きている感覚はするんだけれど。
触れられないままにローの顔を覗くとまだ幼い寝顔。
寝顔は変わっていない。
安堵と共に酷く小波のような不安が迫る。
この子を残して死ねない。

(助けてあげたいけど烏滸がましいよね)

傍観に徹していたのに今更助けようだなんて身勝手過ぎる。
その後直ぐにクリオネの身体に吸い込まれてローが起きたらいつものクリオネになっていた。
元気になったんだなと僅かに嬉しそうに言う子供に返事とばかりに浮き上がる。
その日から一分くらいだけれど幽霊みたいにローの部屋を浮遊する事が出来た。
でも、それはクリオネ本体がある二メートルくらいの範囲だ。
ローが起きる前には戻ってしまうが寝入った子供の寝顔くらいは見守れるようになった。
そんな生活を続けていると突然子供達が名前を披露しあう場になりローはしつこい言及の末に忌み名を口走る。
忌み名とは言ってしまったら駄目なのであるのに。
あちゃー、となりながら聞いていると突然振動が起こりあちこちぶつけられる身体。

「何しやがる。こいつも居るのに、離せ!」

水槽が振動する度にそれが歩みによるものだと知る。
打ったけれど痛くないのはシリコンのゴムボール製だからだ。
それよりもローがこちらを気遣ってくれる言葉はほろりとなる。
それを無視してドサッと一際大きな振動。
ローが見るのは例のコラソン。
何か真剣な話しなのだが、眠気に勝てなくて寝た。
気付くと海の上だった。
何が起きたのだローよ。
それからコラソンは病院に向かい、追い出され向かい、を繰り返す。
その中でローはコラソンに今までとは違う気持ちが芽生え信頼していくのが手に取るように分かった。
コラソンは良い人と認識を改め今まで散々ローに痛い事をしていた事は少しだけ許した。
海兵だとかそうでないとかいう押し問答の後日、ローの病を治せる実があるとの言葉に胸が弾む。
早く来ないかな早く早くとせかせかしていると何やら騒がしい。
出てきたコラソンにローは慌てた。
こんなに感情を露わにして駆け寄る姿は胸を打つ。
リーシャはこの後の未来にコラソンが隣に居ない事を悟る。
こう見えても人生をそれなりに生きているから。
でも、悟る自分が心底嫌になる。
今度こそローは幸せを掴めるのだと信じていた。
何度それが裏切られるのだろう。
何度この子に人は試練を与えるのか。
この人のお陰でローは笑顔を浮かべてくれた。
宝箱から出たローは故郷を出た日から泣かなかったのに、大声で泣いた。
ごめんね、ロー。
そう言いたいのに何も出来ない己は海の藻屑となればいいと自嘲した。