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ローの怒りを間近に感じているこちらはひたすら黙るのだが、それを感じられない扉越しの女は騒然としている。
ローが直ぐ前に居るというのを感じているせいか、気がそぞろだ。
小さく聞こえてくる「嘘。そんな。どうしよう、髪ボサボサなのにぃ」と今気にするべき所じゃないしという突っ込みが心の中で済まされる。
彼も呆れた様子で刀をギチギチと鳴らしている所を見ると力をそちらに込めて怒りの感情を何とかしようとしている節が見受けられた。

「直ぐに答えろ」

彼は女に質問し出した。
どこの誰だか分からないのに良く口を聞けるなー。

「勝手に何故乗った」

拒否をしたのに関わらず。
言葉にされなくても言外に含まれるそれらを感じ取れた。
しかし、女は残念な理解力らしく気付いてすらいない。
バカっぽくアホっぽく、どれだけ己を過信しているのかという「私が居れば貴方は望む椅子を手に入れられるからよ」と興奮して述べる。
しかし、女よ、それはローが望んだ事でなく只の女の欲望なのを気付け。
頼まれてもいないのに乗るだなんて自意識過剰を逸脱している。

「それにね、私、この世界に来る前に女神から貴方は海の秘宝だって言われたの!凄くない?秘宝って滅茶苦茶凄いんでしょ?」

「…………イかれてやがる」

秘宝って何だろうか。
首を傾げたまま聞き役に徹しているとローは溜息を吐き女に此処に居ろと部屋の中で大人しくしているように聞かせた。
女はローに認められたと思っているのか気前良く「分かった。出来るだけ早く迎えに来てよね」と言う始末。
ローが感情だけで動く男ならば既に彼女はこの世に居ないのではと思ってしまう。
彼が温厚なタイプで彼女は幸運だ。
この航海中に放られるかはまた別の次元のお話だが。
船長はこちらの事をちらりと見てから腕を引く為に手を伸ばしてくるが、咄嗟に腕を引っ込める。

「歩けます」

腕なんて掴まれたら女だと即バレる。
それは嫌だと感じて機転を利かせたのだが、どうにも相手の表情が強ばるので、もしかしてバレているのか、と冷や冷やする。
だが、ローは何事もなかったの様に持ち場に戻るように命令してから近くに待機していたシャチへ解散するように言う。
海楼石を持ってこさせても居たので彼女を閉じ込めるつもりなのだろう。
後は彼等に任せるべきだと思い、場を離れるが、歩いている途中ではて、己はどこに寝れば良いのかと気付き困り果てる。
今まで人間のまま朝を迎えた事もないので寝る場所はない。
いつもあの小さな世界で過ごしていたのだから。
うむ、と俯いていると後ろから足音がして振り向く。
驚いた、ローがこちらを真っ直ぐ見ていた。
観察しているというより何か言いたげだ。

(このまま立ってるから可笑しいかも)

部屋に戻る為に向かう筈の人間が立ち往生しているのだから不審に思われてしまう。
慌ててローが歩く為の道を作り脇に身体を寄せる。
そのまま通り過ぎるかと思いきや立ち止まられた。
それにびっくりして見上げる。

「空き部屋でおれは寝る」

ハテナマークが頭を占める。
うん、で?な内容だ。

「お前もそこで寝ろ」

「え」

各自部屋を与えられている船員に部屋なしは当然居ない。
ハートには幹部は居ない。
年功序列もないので一人一部屋なのは船長だけだ。
リーシャも船員として部屋が割り当てられていると知っているだろうに、そんな事を言ってくるローの気が知れぬ。

「いいな」

「は、はぁ」

嗚呼、でも女クルーならば割り当てられていた。
あまり男だ女だと思って彼らと接していないので意識していない。
リーシャは女だがクリオネでもある。
その生物的思考故にオスだのメスだのという意識も極端に薄い。
その弊害からか裸でも恥ずかしさはほぼ無し。
そういえば船員達から一度もお風呂一緒にとか言われたことがない。
可笑しいな、他の人が誘われているのは見た事があるのに。
しかし、誘われてもホイホイ行けないのが女体だ。
そんな事を回想している内に付いてこいと顎を動かすのが見えて付いて行く。
こういう風に誰かの後を行くのは初めてだ。
隠れる様に運動したりするから話す事も稀。
元々船内はローに連れ回されて自然と覚えたから船員の後に付いて行ってという事も無い。
部屋に行くと整頓してあって埃もないみたいだ。

「フフ、ほら。入れ」

ベッドのある寝室に案内されて辺りを見回す。
今までこんなに沢山喋った事なんてないから緊張はピーク。
これ以上話しかけられても話題を提供出来ない。
もう沈黙、それしかないと腹を括る。
ローに足されて椅子に座るが女座りにならないように男らしく振る舞う。
それを見ているローは粒さな観察をしているようなしていないような気がする。

「おれはベッドで良いか。お前も寝れば良い」

二つあるけれど一つは簡易でローが指しているのは簡易でない方だ。
それで良いと頷く。
この動作は便利だ。
ただ首を振るだけでいい。
彼は上半身をベッドに乗せて横になる。
靴は脱がないのだろうかと思ったが指摘する程ではないと思ったので何も言わない。
彼は彼の好きなようにさせる。
それを言っても尚更、今更である。
今は兎に角気配を薄くして彼の意識の範囲外になること。
でないと、うっかり眠れぬ。
彼に体をマジマジと見られでもしたら多分お医者な彼は見抜くに違いない。
体を固くするしか出来ない。
ちょっとでも気を抜けばバレると分かっているから寝られないのだ。
そんなガチガチな空気を当然ながら感じ取れるだろうローが自発的に話しかけてきて更にビクッとなる。

「この船には慣れたか」

今日は何だか口数が多いなあ。
不思議だけれど、あんな事があったから誰かと話したいのかもしれない。
変な女に纏われているから嫌な気分なのかも。
想像だ。

「ええ。ぼちぼち」

無難な回答が出来た。
それにしても最近入ってきた新人と勘違いしているっぽいな。
ローの何気ない膨大な優しさをそう受け取ったのであった。

「ぼちぼち、か。何か不自由してねェか」

しかも、心配してくれている。
どうしたのかな、ヤケに絡んでくるな。

「はい」

「何か頼みたいことがあれば直ぐに言え」

本当、どうしたのだろう。
しかし、質問したら墓穴を掘りそうで怖い。
やめておこ、おやすみって言おう。

「眠たくなってきました。寝て良いですか?」

出来るだけ不審になら無いように敢えて許可を取りこれ以上の会話を封じる作戦。