08
「なァリーシャ」
「なに?」
「このマグカップどうした?」
「あ、それね……」
数日前に晴れて恋人となった私達はお隣りということもあり、半同棲生活になっていた。
一日の半分はどちらかの部屋にいるし、もはや同居しているのと一緒だ。
穏やかだと感じる私にローが面白い話しとやらを持ってきた。
マグカップを離さないまま。
なんでだ!
「ロー、それ気に入った?」
「あァ、やべェなこれ」
ローが嬉しそうに持っているのは白熊がプリントされたポップなマグカップ。
お気に召したようで。
「で?面白い話しって?」
「ユースタス屋を覚えているか?」
「あー、あの赤い髪のヤンキーっぽい人ね」
ユースタス屋とは、同じ大学でローとは悪友だという有名な人物だ。
会ったことは二、三回ある。
「あいつな、好きなやつがいるそうだ」
「え?あの人が?」
大人な恋愛をしてそうなイメージがある人だから、どんな人に恋をしたのだろう?
少し興味が湧き、ローに続きを促した。
「どんな感じ?」
「フフッ、ユースタス屋はどうやらてこずっているらしい」
愉しそうに話すローに私も驚く。
あのユースタスさんが……。
「俺に助言を求める程だぞ」
「よっぽどだね」
ユースタスさんがローに助けを求めるなど、想像できない。
それ程、ローとユースタスさんは犬猿の中で悪友なのだ。
「ローは、なんて助言したの?」
「押し倒せって」
「今からユースタスさんに電話して“ローとは友達止めた方がいいですよ”って言うから携帯貸して」
「嘘に決まってんだろ。第一、ユースタス屋に聞かれたのはデートの場所についてだ」
ローの冗談を冗談として受け取れない私にはけして罪はない。
だってなんだかローの目が意地悪く光っていたような気がしたから。
「で、なんて?」
「ホテル」
「ユースタス屋さぁ〜ん!!!」
「冗談だ」
「笑えない!」
ローなら確実に言いそうで私怖い。
しかも私今ローの「〜屋」が移ったし。
ローの影響力って凄いや。
自分の彼氏だけど。
「それより」
「なになに、まだなんかあんの?」
「俺達一つの部屋にいっそのこと住まねェか」
「え」
今度のローは冗談じゃねェからと笑った。
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