06
「煩いわね!!」
──バシャア
「………」
今の状態を説明しよう。
彼女は叫びながら私に水が入っているコップを引っ付かみ、そのままこちらにぶっかけたのだ。
水が直撃したリーシャは今しばしの放心状態にある。
以上で説明を終わります……じゃないわ!!
「……あっ!」
女子Aは自分のやってしまったことに気づき口元を押さえた。
(こっちの台詞だしっ!)
どうすればいいのかわからずに突っ立っていると、突然腕を後ろに引かれた。
「っ、えっ!?」
相手を見てみれば、さっきまで傍観していたはずのトラファルガー・ローだった。
と、思えば彼は私の腕を掴んだままスタスタと店の入口へと歩き出す。
「え、え?」
パニックだ。私頭混乱してるよ!
「適当に飲んだら船に戻ってこい」
「「「「うす!」」」」
(うす、じゃなくて誰か助けてよ!)
ローは助けを求めているリーシャの視線を無視しつつ、水を掛けた女を見るとニヤリと笑った。
「……!!」
それを見た女子Aは顔を青くしぶるりと震えた。
一瞥し、様子を見たローはズルズルとリーシャを引っ張りながら店を後にした。
それを見ていた船員達は──。
「船長が女を自分から連れて行くなんて初めて見たぜ」
「あァ、しかもずっとあの子見てたしな」
「絶対気に入ったよな」
「「うんうん」」
「つーかさ、船長の笑みを見て震えてる奴どうすんだ?」
「まァ、船長誘惑して失敗してるしなァ……」
「船長相手に怒鳴ったから仕方ないだろ」
「「「………」」」
触らぬ神に祟りなし。
***
男に腕を引かれ数分。
ローは無言で、リーシャもこの人物が海賊ということもあり迂闊に発言できない。
そんな感じで足を動かしていると、不意にローが立ち止まった。
「……ホ、テル?」
建物には英語で『HOTEL』と書いてある。
リーシャはその文字の意味を理解した途端、血の気が引いた。
「は、離して……!」
「勘違いしてるぞお前」
「は?」
やっと口を開いたと思えば。
勘違い、とはどういう意味か。
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