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- ナノ -
 
09


どうしたらこの状況を打破できるのか。
リーシャは悩みつつローの顔を伺う。

「私、本当に帰らないと困るんですけど」

「なら俺の質問に答えれば帰してやらねいこともない」

やけにあっさりと条件付きで答えたローにリーシャは嫌な予感がした。
ここまで連れてきて、はいそうですか、で終わるわけがない。

「質問って、なんでしょうか……」

「この島に思い入れはあるか?」

「思い入れ、ですか?」

おかしな問いにリーシャは暫し黙る。

「ない、ですね」

知っている世界とはいえ、町や島の名前や土地に執着があるわけではない。
麦藁海賊団や漫画に出てきているキャラクターに興味があるだけで、それ以外はリーシャの理解の範疇を越える。
キャラクターだけでもかなりの数がいるからこれもまた大変なのだ。
ローの質問に答えたリーシャは相手が口を開くのを待つ。

「そうか……。じゃあこの島から離れても問題はねェな」

「えっ、そんなこと言ってませんよ」

思い入れがないというからと、問題がないはずがない。
むしろ問題大有りだ。
リーシャが慌ててそう言うと話題のルーキーは不敵な笑みを彼女に向ける。
リーシャはその表情に顔を強張らせソファからゆっくりと相手から視線を外さずに離れた。

「どこへいく?」

さも愉しそうに聞いてくるローにリーシャはただ後ろへ下がる。

「質問に答えたので、か、帰ります……」

「そうか」

返事とは裏腹に、ローもソファから立ち上がり後退するリーシャに近寄ってくる。

(これは、やばい……?)

徐々に焦りが出始めたリーシャ。
今更だがここは早めに脱出したほうが賢明だろう。

「じ、じゃあ、失礼します!」

言うが早いか、リーシャは一目散に扉へと向かう。
足早にドアノブを手に掛けるとバッと開く。

「っ!?」

しかし、出ることは叶わなかった。
なぜなら一つの手がリーシャの肩越しに伸びてきて扉を閉めるように押したからだ。
DEADと青く刻まれた指先にリーシャは背中がヒヤリとする。
それに、首筋に熱い吐息を感じた。
部屋と男からの逃避劇は失敗に終わったのだと理解するしかなかった。

「と、いうわけだ」

「船長!説明が足りません!」

ローの内容をほとんど省いた説明をハートの船員が意見する。

「つまり、私を攫ったんです」

「そういうわけだ」

リーシャが投げやりに言うと船員は内心なんで?と疑問に思った。
経緯を説明するならば、ホテルから脱出を試みようと思ったがローに阻まれ今現在ハートの潜水艦にいつのまにか乗せられていたというわけだ。
明らかな拉致である。

「私、海賊とか興味ないですけど」

「直に好きになる」

「好きになるとかいう問題じゃないですよ!」

リーシャは適当過ぎる発言に反発する。
勝手に攫っておいてそれはないだろ、と。

「ベタなトリップネタはお呼びじゃない……」

ぽつりと漏らすリーシャにローはハテナを浮かべた。

「トリップ?」

「こっちの話です。そんなことより、どうして私を連れてきたんですか?」

悟られないよう会話を曲げる。

「理由は……得にない」

「はぁぁあ!?」

理由もなしに連れ去られたというのか。
飽きれ半分にリーシャは声を上げる。

「なんとなくだ」

「やっぱり家に帰りたい……」

乗るなら麦藁海賊団がいい。
リーシャは遠く豆粒程に見える島に後悔の念と、ほんの少しだけ冒険に馳せる思いの念を向けた。








END






トリップの心得


一.まずは仕事を探すこと

二.知らない人に関わらないこと

三.拉致は必ず起きると覚悟をすること

四.おやつを食べられたらとりあえず海(※海水に限る)に突き落とすこと



(海賊になんとなく拉致されたとあるウエイトレス:の引用)


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