08
「……起きてください」
「ん――」
いつの間にか寝ていたようで心地の良い声にすんなりと目が開いた。
「来ました……」
「……船か」
その言葉にローは全てを理解した。
仲間が迎えに来たということを。
「あの場所にもうすぐ」
「……わかった」
名残惜しげに頭を上げた自分に苦笑いする。
(本当に厄介だな……)
離れたくないと自分の中にある感情が言っている。
リーシャはもしこのまま、船へ戻り別れたらどうするのか。
「お前は俺と別れたら何処へ行くんだ?」
「特にありません。いつものように海を泳ぎます」
「………」
今は人間の姿をしているが海に帰れば人魚に戻る。
それを聞いた瞬間、初めて会った時に頭の片隅に会った考えを咄嗟に出していた。
「俺とこないか?」
「来る……?」
「あァ」
彼女は少し困惑気味に俺の顔を見詰めるとゆっくりと首を横に振った。
「私は貴方と行けません」
「……わかった」
恩を仇で返すような不粋な真似なんてしない。
こればかりは彼女が決める事だ。
「行きましょう」
「そうだな」
お互い特に言葉を交わす事もなく砂浜まで歩いた。
「来たな」
「はい」
砂浜に着くと、自分の船のマークがはためいている潜水艦がこちらに向かって進んでいるのが見えた。
「お別れですね」
「あァ。助けてくれたことは絶対ェ忘れねェ」
リーシャの過ごした時間はたった数時間。
だが、その時間だけで俺は彼女に引かれているのを感じた。
「本当に来ないか?」
「私は貴方と行けません」
二度同じ事を思い、言う自分に自嘲する。
(どれだけこいつが欲しいんだ俺は……)
フッと笑うとリーシャも少し笑う。
もうこれは恋を通りこして愛だな。
なんて思ってしまう辺り、相当――。
「さようなら……」
その言葉と同時に男の頬に温かな温もりを感じ、欲しいという衝動がさらに強くなった。
(手放せない)
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