07
「雨が止んできたな」
「……もうすぐ夜になります」
「ここで野宿するか?」
生憎、武器は船に置いたままだから素手と能力のみで戦うことしかできないが。
そう言うと、リーシャは頷き自分の足に手を置いた。
「私は起きてるので貴方はここで寝てください」
「……生足でか」
ぽつりと呟けばなおも足を差し出すように俺が寝転ぶのを待つリーシャ。
本当に寝ないと駄目なのか?
もし俺がシャチらへんだったら喜んで寝転ぶだろう。
しかし、ローはそんな性格はしていない。
(やるしかないのか……)
もしこのまま寝転ばなかったら、ずっとこの状態だと安易に想像でき、覚悟を決めてゆっくりと彼女の生足の太股に頭を置いた。
「お前は男を見たことがあるのか?」
人を疑うこともしない人魚にローは心配になる。
この先、俺ではない違う俺を助けたりすれば間違いなく売り飛ばされるか襲われるかのどちからだ。
「見たことはあります。海から……貴方も」
「俺?」
尋ね返せばこくりと頷き話し始めるリーシャ。
「私は船にいる貴方をずっと海から見ていました」
「いつからだ?」
そう聞けば「二日前」と返ってきた。
「何故だ?」
「貴方が綺麗だったから。海を見る目が」
海を見る目?
そう言われそういえば、と確かに本を読みながら海をぼんやりと眺めていた事を思い出す。
「俺に惚れたのか?」
フフ、とからかうように笑えば返ってきた言葉は。
「わかりません。でも心が痛いです」
その言葉の意味を知っているローはからかうはずだった言葉を失う。
「そうか、痛いのか」
「はい」
彼女は恋や愛を知っているのだろうか?
そう思えば言葉にできない感情が沸き上がってきた。
人魚と人間の恋はどちらも苦しめる。
昔、何かの本で読んだことがある。
小さい頃に。
「禁断の、恋ってやつか……」
「恋?」
よくわからないというような顔をするリーシャの頬にそっと自分の手を置いてスルリと撫でた。
(許されないこの鼓動)
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