03
――ザァン
「……ん」
波の音が聞こえ徐々に脳が覚醒していく。
ここは……。
そう思い俺は少しすっきりした頭が意識を失う前の記憶を蘇えらせる。
『せ、船長ー!!』
………。
あァ……確かシャチの叫び声が脳裏を巡り自分は海に落ちたのだと思い出す。
じゃあ、助かったのか?
海と砂の臭いにどこかへ打ち上げられたのだと感じた。
(?……やわらかい?)
頭の下敷きにしている感触を不審に思い、そこで間近に人の気配がすることに気づく。
「………」
危害を加えてくる様子がなかったためゆっくりと目を開ければ――。
「……誰だ?」
そこにはウェーブがかった淡い水色の髪色をした裸の女がいた。
目を覚ましていざ目を開けてそこにいたのは髪が胸を少し隠しただけという上半身裸の女。
上半身だけ裸というのにも驚いたが、何より一番目を引いたのは下半身だった。
「お前……人魚か――」
人間なら誰しもが持っている足はなく代わりに人魚特有のおヒレ。
俺が呟いた言葉に首を傾げこちらを見る。
「……言葉がわかんねェのか?」
どこかのお伽話のような現状にすぐさま気がついた。医者だからということもあるが、なんとなく雰囲気的にそう感じたからだ。だとしたらカナヅチの俺が助かった理由がわかる。つまり遭難していた俺を助けてくれたのは人魚だということだ。
「……話せます」
人魚が少しだけ口をきいたことに意思疎通がちゃんとできると俺は安堵する。
「助けてくれたのか?」
「……はい」
ゆっくりと頷きふわりと微表情で笑う女の姿に思わず魅入る。
「そうか……礼を言う」
女はスッと手をおヒレに手を当てる。
「どうした」
声を掛けた瞬間、髪色と同じヒレがポォ……と輝き出した。
なんだ……?
何が起こるのかとヒレに目を懲らしていると光りが徐々にヒレの形から人間の足の形のシルエットに変わっていく。
「な……!」
いくつもの試練や不思議な出来事に遭遇してきた俺もさすがに目を見開く。
(どうなってんだ?)
仕組みはどうあれ、女は人間の足になると立ち上がり、俺にも立ち上がるようにと仕草で言ってきた。俺はふとそこで迷ったが、恩人である人魚の女に付いていくより選択はないと考え立ち上がる。
「付いてきてください」
口数が少ない女は何故俺を助けたのだろう。
疑問は尽きることがないため、後回しにしよう。
「おい」
ぶっきらぼうだとかよく言われるがこれが自分なのだから直しようがない。
「これ着とけ……」
呼びかけると顔をこちらに向ける女に向かって自分のパーカーを渡す。
先程からずっと上半身も下半身もすべて全裸な女。
別段気にしないが着ないよりは着ていてくれた方が楽だ。
パーカーを受け取った女はキョトンとあまり表情の変わらない顔で服を着た。
(不思議な人魚)
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