02
その日は大嵐で、能力者である俺は海に落ちてしまう危険性を配慮して船長室でいつもなら待機をして嵐が過ぎるのを待っているはずだった。
「こっちはどうだ!?」
「大丈夫だ!」
「甲板は!?」
クルー達の声を聞きながら俺はもうじき嵐が近づいてくることを感じ自室に向かおうと足を進める。
「船長、戻るんですか?」
「あァ」
クルーの一員であるシャチに声を掛けられ適当に返事をした。
ゆっくり本を読むためには静かな場所が一番ですよね!と笑いながら話し掛けくる。
「じゃあ――!?」
シャチが最後とばかりに言葉を発しようとした時だった。
――ギギギ!
突然、潜水艦でもある船が斜めに傾いた。
「くそっ!」
雨が降って下が濡れているせいで手が滑りずり落ちていく。
「せ、船長ー!」
声の方へ向くと手をこちらに向けて突き出しているシャチがいた。
おれは迷わずその手を握る。
海に落ちればカナヅチの身体は藻屑となるのは確実だからだ。
「っ、雨で滑って」
嵐との衝突間近とあって容赦なくこの船を襲う荒波。
シャチと俺の手が濡れて滑りやすくなるのは当然のこと。
しかし、懸命におれを離すものかと踏ん張るシャチに限界を感じた。
「くそうっ!……あァ!!」
少しずつ解けていく指、ついにお互いの手が離れシャチの叫び声が聞こえた瞬間――。
俺は覚悟を決め目を閉じた。
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