01
人間は人魚と恋をした。
「ロー。海に何か浮いてる」
「あれは島だ。人間がたくさん住んでる」
「島?人間がいる島は初めて」
「そうか。なら、気をつけろ。お前は人間の足になれ」
「どうして?」
ローは女の純粋な瞳に目を細めた。
その純粋さが罪なのだ。
ローが助かったのも、仲間の元に帰れたのも、全てリーシャのおかげだが。知らないからこそ起きた奇跡。
人魚なのに、人間の足を有している。
「人間は欲深い生き物だ。お前なんか、特に狙われやすい」
「狙われたらどうなるの?」
「売られるか、実験室行きだな」
脅し、怖がらせるように忠告する。
だが、リーシャはイマイチ理解できないようだった。
「とにかく、俺から離れるな」
「うん」
こうして素直に頷く人魚に内心、優越感を感じる。
自分だけが守れる存在。
愛しいと思う。
ローが守ると約束した日、自分が攫ってやるといった。
島に着くと、リーシャは早速キョロキョロと興味深そうに辺りを見回していた。
(先が思いやられるな)
はァ、とため息をはく。
「ロー、ロー」
「なんだ?」
「人、いっぱいだよ」
「あ?……あァ、それが普通だ」
彼女は目をキラキラと輝かせていて、行き交う人間を見る。
淡い髪色は一目を引くようで、町の人間はリーシャをチラチラと見ていた。
そんな事に気付かないリーシャはローの腕を控え目に引く。
「ロー、私、お腹空いた……木の実はここにある?」
「木の実はないが、食べる物はちゃんとあるぞ」
リーシャは人気のない無人島を中心に生活していた為、人間が行う生活サイクルはない。
初めての土地に若干の不安を感じているのか、その表情は落ち込んでいるように見えた。
「大丈夫だ。果物もある」
後で買ってやる、と言いながら淡い髪を撫でる。
すると、リーシャはふわりと嬉しそうにローの手に擦り寄った。
「全く、お前は天然な小悪魔だな」
「?」
「気にするな。お前はそのままでいればいい」
独り言に近い言葉は、リーシャを困惑させたようだ。
ローは微苦笑して彼女の、その柔らかく光る髪をひと撫でした。
「ロー、優しいね」
「俺はいつでも」
「時々意地悪になるよ?」
「………」
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