10
――バシャーン!
「え!船長ー!?」
先程ペンギンと俺の会話に意味がわからないとドキマギしていたキャスケットの叫び声が力の抜けていく身体に響いた。
(まるで自殺行為だな……)
そうでもしなければ彼女は俺に近寄ろうとしないだろうから。
「ロー!」
久しぶりに聞いたかのような錯覚を感じ、初めて彼女が自分の名前を読んでくれたと嬉しくなる。
「また会ったな」
「なんで飛び込んだんですか?泳げないんでしょ?」
「あァ」
心配そうに俺を抱きしめるリーシャ。
船からは「人魚!?」というクルー達の驚いた声が聞こえる。
「お前に助けてもらう為だ」
「どういうことですか?」
首を傾げる彼女に俺はフッと笑う。
「これで借り二つだ」
「借り?」
「あァ。だから俺は二つお前に恩返しとやらをしてやる」
これは駆け引きでもない。
「一つはお前に恋を教えてやる。今も心が痛むか?」
「……はい」
「じゃあ決まりだな」
そして――。
「二つ目は俺の船に乗れ」
「どうしてですか……?」
リーシャは断ったことを言っているのか俺をじっと見てくる。
「正直二つ目は俺の我が儘だ」
「我が儘、ですか?」
キョトンとするリーシャに我が儘を知らないんだな、と知る。
「俺はお前に乗ってほしい。絶対ェに守ってやる、何があってもな」
こちらの言葉にリーシャはずっと黙ったままで、そんな彼女に――
「俺は海賊だ。迷っているならお前を奪ってやる」
自分でもこんな言葉を使う日が来るなんて思わなかった。
「奪ってください……」
小さな声が聞こえ、俺は「もちろん」と答えた。
上からクルー達の冷やかしの声が聞こえた。後でバラしてやる。
でも今はこの禁断の愛とやらを一生離さないように、愛しい人魚と恋を始めるとしよう。
(ようこそ僕らの禁断の場所へ)
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