ガラスの靴は脱いだのよ | ナノ
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色んな騒ぎを経てローの部屋でくつろいでいるリーシャはモネが言った通りに持ってきたお茶と摘まむお菓子を食べて飲んでを繰り返して消化していく。
そんなに食べるのかと言うローに笑う。

「食べ物は食べられる為に、飲み物は飲まれる為に存在しているのだよ」

「言い方だけは哲学っぽいな」

という感じで話していると何やら部屋の外が騒がしくなってきた。
話し声や言い合う声が聞こえて、ローもそれに気付き舌打ちしそうな声で言う。

「ついに来やがったか。遠慮を少しでもしようという気遣いが出来るかと期待したが無駄だったようだな」

彼が言い終える前にローの部屋の扉が盛大に開く。
振り返って見た時、リーシャは時間という時間が止まって見えた。

「ロー、帰ってきたと聞いた。それと女の子を部屋に連れ立ったともな。ほう、このお嬢ちゃんがローの連れか」

彼はサングラスを掛けていた。
彼はピンクのモフモフとしたファーの肩掛けを着ていた。
身長も大きいようでドアの幅がギリギリな状態で入ってきた。

「リーシャ、こいつがドフィ………ドフラミンゴだ」

ローの言った名前に酷く衝撃が走る。
この名は雑誌でもテレビでも多くのメディアで有名な名前だ。
だが、そんな事で言葉を失っているわけではなかった。
そうだ、自分だけがこの世に再び生を得たわけではないのだ、とこの時世間の狭さと魂の因果を知る。

「初めまして」

「畏まらなくて良い。ローが久々に連れてきた友人、いや、恋人か?」

「ドフィ………いや、ドフラミンゴ。また勝手におれの事を調べたなっ」

どうやらローが恋人を取っ替え引っ替えしている事は調べているらしい。
そうなるとリーシャ自身の事も調べられていると思った方が良さそうだ。

「悪い………勝手に嗅ぎ回られて嫌だろ」

ローが慣れた事なのか謝ってくる。
それにリーシャは首をゆるりと振ると安心させるように笑う。

「ううん。親なら子供の心配するのは当然だし、良いか悪いか白黒はっきりさせたいのはどの親も一緒でしょ?別にトラファルガーくんのせいじゃないから気にしないで」

これがもし親でなかったら会社の不利益になる人間をふるいに掛ける意味で調べていると感じただろう。
けれど、ローを見た限りではドフラミンゴに人生を邪魔されているようには見えなかった。
リーシャが言い終えるとローが瞠目して「………」と黙る。

「フフ、フッフッフ!こいつァ良い!どこでこんな良い子捕まえたんだ?ロー!」

「っ、煩ェ。顔合わせが目的だったんだろうが、もう出てけよ!モネっ」

ローが顔を不機嫌に歪めて名を呼ぶ。
すると、後ろに居たらしい女性が姿を現して「ふふふ」と笑ってドフラミンゴへ声を掛ける。

「若様、これ以上長居をすると馬に蹴られるわよ?」

「フフフ!そりゃあ大変だ。じゃあおれは行くぜ。嬢ちゃん、また来てくれ………フフフ、おれとした事が間違えた。来てやってくれ」

「ドフラミンゴっ」

立ち上がったローがなかなか立ち去らないドフラミンゴに気を荒ぶらせて扉を閉める。
もう少しで挟まり掛けたピンクのファーも良いタイミングで全て扉の外へ行く。
息を荒くして呼吸するローと二人になったリーシャは苦笑した。

「なかなか個性的な人だね」

「このファミリーの中でも群を抜いて悪趣味な奴だ」

そう嫌な顔をしながらも彼はドフラミンゴを根底から嫌ってはいないだろうと感じた。
ドフラミンゴのローへ向ける視線も親というより弟を見ている感覚に近い。
親として兄として、といった所か。

「賑やかな家で良かったよ。うん。恋愛出来ないなんて言うから後ろ暗い方向で想像してたし………」

「はァ………賑やかねェ………大分ポジティブに捉えたな」

「そーかなあ?」

モネも先程玄関で会ったベビー5も皆ローを個人として存在を把握している。
ローもそれを普通にこなして、日常をリーシャに知らぬ間に見せた。

「トラファルガーくんはとっても良い家族達に囲まれてるね」

「んな事言われたのは初めてだ」

照れたように眼を細めたローに可愛いな、と思い新たな一面を知った。











明日から夏休み。
今日は夏休み前なので学校が早く終わった。
ローは夏休み前最後の日という事で告白ラッシュに揉みくちゃにされている。
恐らく夏休み前に彼女のポジションを得ようと言う魂胆が背後にあるようだ。

「僕はしろっくま、くまっくまっ」

頭にふと湧いたテレビのCMソングを歌っていると前後に隣の高校の制服を着た男子が二、三人たむろしていた。
いつも通り通ろうと横を過ぎたら例の生徒が前に通せんぼうしてくる。

「ねーねー、君隣の高校の子だよね?」

「高校生にもなって通せんぼう」

「なっ」

リーシャの独り言に頬をひきつらせる男子諸君。

「ははは、ならおれらとデートしてくんね?」

なら、なんて文法がチグハグだ。
仕方ないと右を向いてスルーしようとすると相手は逃がさないつもりなのか、また行く手を阻む。

「警察、親、PTA」

「え?な、何」

「選んで?どれを呼んで欲しいのかな?」

「は、何いっ」

「オススメは………警察」

「け………って、そんな見え透いたバレバレな嘘なんて意味ねェってのっ」

面白い程ビビるナンパ生徒に笑いを堪える。
しかし、なかなかしぶとい奴らだ。

「おれの前でみっともねェ真似してんじゃねェ」

どうあしらおうかと悩んでいると、第三者の声が聞こえて後ろを向くと、赤い髪がシンボルなヒーローが現れたよ!
ヒーローの登場により戦闘シーンはないまま彼らは顔を蒼白にして去って行った。

「つーかお前のも聞いていたが………なかなか度胸があるな」

「え?どうも………ナンパという戦い方をロクに知らない人達だったので………それより助けて下さって」

「別に、気が立ってただけだ」

「ありがとうございましたテンプレヒーロー!」

「は?………テンプレ………っ!」

ぶっきらぼうな顔をしていたのに、途端に般若へと変わる。
ローを「可愛い」と褒めるのと同じ感覚で言ったのに何故か怒り出した男の子に首を捻る事しか出来なかった。
その後、漸く落ち着いた彼はさっさと行こうとしたのだが、それはいけないと呼び止める。

「あの、名前を………」

「別に必要ねェだろ」

「あ、そうだった………名前なんて無意味か……分かりました!さよならテンプレヒーロー!」

「馬鹿止めろ!………くそっ、おれはキッドだ!」


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