ガラスの靴は脱いだのよ | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


テスト二週間前にしてコピーさせてもらったローの字を目で追う。
しかし、今更勉強しても付け焼き刃なのは目に見えている。
まだ幸いなのは高校二年という事だろうか。
幸いってなんだ、と己にツッコむのも最早何度目か。
唸りながら図書室に居るとザワザワとした生徒が入ってきた。
今は図書室を担当している人も居ない。
大抵はいないので仕方ない事態だ。
煩わしい騒音から逃れようとノートをバックに詰めて立ち上がろうとすると、一人の男子生徒がこちらを見ていた。
うわ、と心の中で声を上げる。

「リーシャじゃん。なにやってんの?つーかマジ化粧なしのスッピンなんだな」

それはギャル友の彼氏だった。
如何にもチャラ男ですと言った話し方をする男に適当に相槌を打つ。

「つーか、最近付き合い悪くね?」

つーかつーか煩い。

「あはは……私最近忙しくてほんとごめんねー」

愛想笑いで逃れようとするが追求は止まない。
だから徐々に苛々してきた。

「お前さーそういやトラファルガーと付き合ってんだって?つーことはもうヤったのか?」

「あー、私も気になるー」

ギャル友だった子も加わる。
なんて嫌な質問を平気でしてくるんだこいつらは。
だから青春を不健全と結びつけるこいつらは嫌いなんだ。
何故こいつらと友人の繋がりを持ったんだと今世の自分に怒る。
今回の人生がこうなんだから怒るのもお門違いなのは頭では理解してるのだが。
そろそろ解放してくれと思うが彼等の好奇心はなくならない。
しつこいな、と鞄を持つ手の力を入れた時、図書室の扉が開く音が聞こえ、皆の視線が一時そちらへ行く。

「あ」

ローだったので驚く。
先に帰ったと思っていたのに帰っていなかったのだ。

「勉強するからと聞いて来てみれば。何だ、こいつらは」

「あ、えっとー」

「ああ、分かった。チンケな気持ちで人のプライベートを聞いてくる奴らか」

「……は、は!?て、てめェトラファルガー!」

「おれはお前に名乗った事はない。勝手に呼ぶな」

「調子乗ってんなよ!」

「や、やめなよ!馬鹿!」

今にも襲いかかりそうなギャル友の彼氏を止めに入るギャル友。
どうやら彼が暴走しないように止めたという純粋さから来たのではなく、ローに頬を染めている事から、その理由は悪い印象をローに植え付けたくないからと見た。
恐らくギャル友はリーシャの後釜を嬉々として狙っているようだ。
もし此処でギャル友の彼氏がローに殴り掛かって問題になったら、ギャル友の彼氏は問題児という決定的な烙印を押され、その彼女であるギャル友も同じ烙印を押されるだろう。
此処まで考えて行動したかは本人にしか分からないが、自分ならその理由も含めて止める。
ギャル友は落ち着かせようと彼氏を宥める為にもう行こう、と言って図書室を去るのでその友人達も慌てて出て行く。

「トラファルガーくん、ありがと」

「別に、たまたま来たら不愉快な声が聞こえたしな」

彼はさっきチンケな気持ち〜という台詞を言っていた。
恐らく彼等がローとリーシャの関係を邪な単語を絡めて聞いてきたのを聞いていたから知っていたのだろう。

「うーん、今日もトラファルガーくんは可愛いね」

そう口にするとまた前回同様に怒り出したロー。
すると、その最中に図書室の管理人の人が入ってきて「お静かにお願いします」と注意してきた。
煮え切らない様子で「肝心な時に居なかった癖に……なんでおれが言われなきゃならねェんだ」と文句を垂れたローに密かに笑った。









図書室から退出した二人は帰りの道を歩いていた。
結局そんなに勉強が進まなかった事を残念に思いながら見慣れた景色を眺める。

「うーん、これから図書室で勉強するの止めとこうかな」

「今日はあいつらが居たからで、これからは寄り付かなくなるだろ」

「えー?でも絡まれると凄い面倒臭い」

「面倒臭い?あの男が怖くねェのか」

普通の女子ならば文句を言われるんじゃないかとか、脅されるんじゃないかとかビビるかもしれない。
けれど、リーシャをそんじょそこらの子とは思わぬなかれ。

「例え恨みつらみの報復が来ても……そんなの子供の罵倒程度じゃない?そんなの何処が怖いの?」

「お前偶(たま)に変な事言うな」

ローが首を傾げるので笑う。
此処(ここ)は笑って誤魔化そう。  

「これは一つの案だが……おれも図書室で過ごすっていうのは、どうだ」

「え?……そんなのトラファルガーくんに悪いよ。今回の事はあっちが悪いし、例え何か言ってきても責任を感じる必要なんてないから」

煽ったのも撃退したのもローだがそれは救ってくれる為の止む終えない事だった。
わざわざ共に帰ったりしてくれるだけでも十分なのに。

「友人として言わせてもらうとね、トラファルガーくんにも危ない目にあって欲しくないんだよねー」

「友人……?いつから俺達は恋人じゃなくなった?」

「え?やだなー!この間別れようって言った時だけど」

「………………おれは何も言ってない」

「トラファルガーくんがイエスって言うの待たなきゃならないの?」

真面目に聞くとローはう、と声をどもらせて黙り込む。
どうしたのだろう、今までならば彼は喜んで彼女達と別れて来たと聞いている。
それに、彼女を定期的に変えているという事は別に別れても構わないと公言しているようなものだとリーシャは認識していた。
違ったのかと首を捻る。

「兎に角……その、今はお試し期間って事だ。まだ時期じゃない。相手から切り出されたのは初めてだが……」

所々苦しげに答えるローにお試しならばそれまで待って別れれば良いかと考えて分かったと頷く。

「お試し期間がどれくらいか知らないけどそれまでトラファルガーくんに付き合えばいいんだね……まあ、じゃあ……あ、でも……私の恋探しに支障出ない?」

リーシャから別れを切り出した理由を思い出して不安になる。
すると、ローは焦った口調で「手伝ってやる。何事もギブアンドテイクだってドフィも言ってたしな」と添えて来るので、それならば少しの間だけ彼と居ても構わないかな、と気楽に考え直した。


prev next 【04】
[ back ]