ガラスの靴は脱いだのよ | ナノ
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ちょっと離れただけなのに随分と待たせてしまった気がする。
ローに駆け寄って笑顔を浮かべる。
気にしていないというのをアピールする為。

「さて、回ろうか」

こういうのを世間では大人の対応という。
彼が駆け寄ると手をギュウッと手を取られて驚く。
凄い力で握られて絶対離すまいというのがヒシヒシ伝わってきて苦笑。
そこまで寂しがらせてしまったのだと己を恥じる。
若い娘というものでない図太さを感じるのに、こういう時だけ都合良く恥じらって誰かを傷付けるなんてそちらの方が恥じるべきだろう。

「ごめんね。今から沢山楽しもうか」

伺うように言うと彼は頷く。
大人の対応は大人げないというから、今は封印しておく。
ローの前で大人のように振る舞っても逆に遠慮しているだけだと言われるまで。
クラスメイトみたいに振る舞うのが吉。
となっても、どう彼らが過ごしているのか真面目に見た事はない。
取り合えず文化祭のマップを見てどこへ行こうかと相談する。

「待ちなさいよ」

うわ、ここで呼び止めますかね普通。
カップル裂く所業しますかね。

「邪魔すんな」

ガルルルと威嚇している風に聞こえるローの低い声に胸がキュンキュンしてしまう。
歳を考えろ自分、チョロすぎやしないか、ええ?
はーひーふーとローに気付かれない様に呼吸する。
視界の端にマリベルが見えてチョコバナナを食べながら親指をグッと立てていた。
なんでそこに居るのか。
というか、チョコバナナぁ。

「ロー、チョコバナナ売ってるとこ行こ。食べたい」

やだ、食べたくなってきたよ。
チョコバナナのバナナはあまり好きじゃないのにチョコレートがかけられると美味しくなるのだ。
魔法か!

「いや、だが」

ローがチラッと難癖を付けてきたテンドウを見たが、わくわくしているこちらを見て考える。
少しして考え終えたのか彼はチョコバナナ売り場へ向かう。
リーシャの手を握ったまま。
それに我慢ならぬのはテンドウ。
また呼び止めようとしたが、ここで思わぬ人間に呼び掛けられる。

「ねぇ、そこのあなた」

「え?」

美声に振り返ると居たのは声に負けず劣らずの美女。
モネだった。
文化祭なので出入りしていても不思議ではない。

「ね、あれモネさ」

遮られた。

「おれらに声かけたんじゃねェから構うな」

え、でも、となる。
確かにテンドウに声をかけたのは意味深だ。
まぁチョコバナナが待っているから挨拶は後でも良いかな。

「二つ」

ローが注文してくれる。
はい、どうぞと渡されたチョコバナナは出店のような完成された品。
こういうのは文化祭だから雰囲気が大切。
パンフレットを見ていると演劇なんていうものももあり、面白そうだと自分レーダーが反応している。

「ね、これどう」

彼にも見せるために寄ると肩がとんと当たる。
あ、と思ったら赤面する顔を隠す為に斜め下にパッと向く。

「それも良いんじゃねェか」

相手も斜めを向いていてパンフレットを見ていないが、こちらも同じなので賛同する。
うん、チョコバナナ美味しい。
はぐはぐと食べているとローがこちらを食い入るように見詰めて、彼もチョコバナナを食べた。

「知らないやつに食べもんやるって言われて付いて行くなよ」

合間に言う。
いやいくらなんでも付いてかないですから。

「はは、面白い」

なるほど冗談ねー。


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