前回のあらすじ。
事件は既に起きていた。
うん、合ってる。
「おれらからしたら事件でも何でもねーな」
「キッドくん。詳しい事を吐いて?」
「何だよ吐くって!おれは犯人かっ。話しての間違いだよな?」
胡散臭げにけんもほろろ状態で胡乱に見てくるキッド。
でも、無視。
今は違う事を知りたいから。
今日は侮文化祭二日目。
前から誘っていたキッド&マリベルカップルがちゃんとやってきてくれた。
律儀に何だかんだ嫌々言いながらも来てくれるキッドのそういうところが凄く良いと思う。
「寧ろ、今まで何の進展もなかった所がかなりの大事件だ」
「んー。キッドくんの言いたい事はなんとなーく分かる。でもね、時には見てみぬふりをすることも大切だって思わない?」
「つまりはあいつとの間にあった事をなかった事にしたいんだな」
「察しが良すぎてお姉さんびっくり」
「いやお前おれとタメだろ」
「えー、ノリ悪うい」
「うっせェ」
キッドがからかい易いのを応用してカタカタと笑う。
良いなぁ、こういうのがしたかったんだよね。
ザ、青春!
女友達も出来たし、順風満帆。
なんだか今がとても楽しくて、永遠にこういう気持ちでいたいとすら思った。
で、どうしてくれるのだと期待に胸をときめか、じゃなくて、期待に胸を逸らす。
ローのやったことを帳消しに、出来るならば記憶から消して無かった事にするのが目標だ。
しかし、キッドはそれに対して反対意見を示した。
酷い、信じていたのにー!
泣くフリをするとスパンと何かで叩かる。
めっちゃ痛いんですけど。
手に数学の分厚い教科書があった。
え、それで叩くとか鬼畜やないですかー。
誰かが置いていった代物だったようで、ちゃんと持って帰れようううう!
涙目になる。
「マリベルさんにキッドくんにボコられたってチクってやる」
「ただ笑って受け流されるだけだと思うぞ。それよりもおれに構うよりトラファルガーと話し合えよ」
キッドに正論を言われてシュンとなる。
辛気臭い雰囲気にしてしまって申し訳ないが、落ち込まずにいられない。
「分かってはいるんだけどね………正直気まずい」
はあ、と溜息を付きながらモジモジ。
キッドに付き合ってもらっているのに不甲斐無さに己で辟易する。
申し訳無さでどうにかなりそうだ。
それと、ローの事も頭が痛い。
「あいつがどういうつもりでてめェにそんな事をしたのかはおれから言う事はない。てめェの耳で本人なり何なり聞けば済む」
「言うのは簡単だってば」
それをやれるのならこんな所で隠れるように息を顰めている訳もない。
「悩んでようがおれは行くぞ」
「え、行っちゃうの?置いてかないで〜」
縋る真似をして引き止めるがキッドは無情にもガタンと立ち上がる。
マリベルと合流するのだから長居出来ないのだろう。
「はああ。ローにだけは居場所教えないでよね?ね?約束!」
無理矢理約束させた。
そして、誰も居なくなった空き教室。
ローだって直ぐに見つけられない筈だ。
そもそも探してくれているかも知らないので、隠れる必要性は分からない。
もし探しているのなら隠れておいて丁度良い、という確率。
彼は目立つしと場所を把握しやすい。
有名人は大変なのだろう。
他人行儀に漠然と思いながらぼんやり窓の開いているカーテンの靡く様を見ていた。
不思議な気持ちになる。
『ねぇ、ーーーさん』
前世の記憶の欠片が不意に再生された。
『んあ?何だ』
『私達は何で敵同士なのかな』
『さァな。勝手に組織や敵対してる奴らが決め付けた暗黙の了解とかそこら辺だろう』
『そうだね』
彼は無名の人だった。
けれど、とても隣は居心地が良くていつまでもそこにいたいと感じてしまうのだ。
それは恋や愛ではなく友愛だろう。
楽しかった。
「もう、敵対なんてする人生は懲り懲り」
頷いて改めて思う。
ここは平和で、平和でない世界でもある。
「しんみりなっちゃったなー」
今ではほろりとなるくらいの過去だ。
「後悔をもうするなって、私は誓ったのになあ。意志が弱いんだから」
過酷な前世だったから余計にウジウジしている己がじれったくなる。
このままだと駄目だと思っているのに体はままならない。
それと、彼への気持ちが名前として具体的にかつ生々しく産声を上げた今、更に顔を見て話すのは恥ずかしくあった。
しかし、どうせいずれまた話す機会など沢山あるのだから結局顔を合わせる事になる。
そうなのだと考え直せば今の行動は簡潔に述べると無駄骨。
それに、このまま気まずくなるなるのは嫌だ。
彼とは話し合わなければいけないと腹を括る。
(恥ずかしいけど精神年齢年上の意地を見せねば)
彼は何を思ってああいう真似をしたのか聞かないといけない。
筋肉がほんのりあるお腹を意識して深く息を吐く。
軟弱な身体を意気込みも兼ねてふんふんと生息荒くさせ、スクッと立ち上がる。
校内放送で呼び出す真似などローはしないだろうが、万が一、億が一にあるかもそれないのでそそくさと何事もなかったかの様に退室する。
良い隠れミノになってくれた教室よ、貴方の事は忘れ、ああいや、やっぱり二日後には記憶の片隅で忘れているな。
ローを探すには少しコツが必要だが、それほど難しい事ではない。
携帯を見ると着歴が三件とメールが二件入っていて、どちらもローだった。
連続してかけてはおらず、時間をズラしている辺り、リーシャが敢えて会わないようにしている意図を察しているだろう。
歩いていると階段を下りた裏の死角に見覚えのある女子生徒を発見し、その相手を見て懲りない女め、と辟易。
「ロー君!私と回ろう?彼女さん一緒に探してあげるしっ」
(私をダシに使うたー良い度胸だ)
受けて立ってあげようか。
逆ハーだけではまだ満足出来ないってか、良いご身分である。
「いい、必要ねェ。あと名前勝手に呼ぶな」
素っ気なく答えるローは無表情だが、少し落ち込んでいるようにも見えた。
ローは力なく後ろを向くが女は諦めが悪く、まだ誘いかけようとしている。
彼女の手がローの肩に伸びる前に声を出す。
「ロー。待たせてごめん」
「!ーーリーシャ!」
一時間越しの再会だ。
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