ガラスの靴は脱いだのよ | ナノ
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文化祭当日。
等々来た、この日が。
楽しみで仕方なかったイベントである。
あまりに楽しみ過ぎて眠れなかったから今とてつもなく眠い。
ううむ、不可抗力とは言え、眠いのは失敗した。
ショボショボするし、ドライ気味な眼。
パシパシするから頭が揺れる。
ローと登校時に出会って心配されるが、平気ですよー、と伝えた。
しかし、全く信用されない。
うーん、今までの経験の差?それとも行いのせいかなあ?
そんなに心配してしまうような事をやらかした覚えは皆無である。
彼はやはり心配だという気持ちを隠さず文化祭が始まる開会式を体育館でやっている時でさえこちらを伺っていた。
それに苦笑して世話好きだな、と好感を感じる。
角して、異世界にクラスごと渡りました的なラノベ展開は起こらなかったが、別のイベントを目撃した。
例のビチクソげふんげふーん、達が一時間単位で男の方がコロコロ変わるという歪であり変則的なイベント。
あーん、してたり、転けかけるという茶番だったり、怖そう(なフリ)にお化け屋敷に入っていく様を見せつけられて大切な精神力、即ちSAN値がガリガリと削られた。
ローも同じように見ていた。
見掛ける度に男が違うと呆れていたのも一緒。
時間を分けて複数とデートしているというのは周知の事実となる。
誰もが冷たい眼や呆れた眼、汚らわしいとばかりの視線、羨ましいという視線。
羨ましい視線は男の子が各クラスの人気者だったり、スポーツ万能だったりとモテる子をホイサホイサと釣り上げている。
彼女はどう見てもその子のステータスと顔の造形で見ているが、男の子はどう思っているのやら。
聞いてみたい好奇心と面倒くさがり屋な部分が五分五分。
どうであれ、お互いギブアンドテイクなのだろう。
そういえば、ローは貴重な文化祭という日にリーシャと回るだけで良いのだろうか?
恐らくリーシャが知らないだけで、女子から文化祭を一緒にと誘われている筈。
彼女が居ても普通に告白されるローの事、断っているに違いない。
それはそれで女子から恨まれそうだ、彼女を謳っている自分が主に。
ローは恨まれないだろう。
恨まれるのは総じて女の方ばかり。
ぶっちゃけ逆恨みも甚だしいけれどね。
前にローの本家へ行った時、モネに小型の録音ボイスレコーダーをいただきました。
というわけで、それらを身に着けている。
どこにって?勿論下着ですけど。
何で下着にと聞かれたらそれはモネが言っていたからとしか言えまい。
確実に剥がされない場所はそこだ、らしい。
音もボヤけない優れものらしい。
いざという時はレコーダーを改造してあるので、どうとでもなると言われて乾いた笑みを浮かべるしか出来なかった。
それって暗に構造も改造も変更も捏造も辞さないって言ってる訳だ。
怖い怖いー。
しかし、転校生が何かしてきそうでしてこない気配があるので有り難い。
別に反撃しようと思ったら出来るが、この現代社会では手を出したら弾じられる。
ということは、文化的にやればこちらの勝ちに等しい。

「また違った味わい」

「美味い」

焼きそばなう。

「むしゃむしゃ。美味美味」

「ソースは市販だな」

イカ焼きなう。

「ぼりぼり。おいひー」

「初めて食った」

チョロスなう。

「バターだ」

「焼け具合が素人だな」

トウモロコシ焼きなう。
そして、もう何度目か分からないなう。

「さいこー文化祭ー!」

「うっ………もう無理だ」

二回目のかき氷器なう。

「甘い!幸せ」

「…………」

林檎飴なう。

「むぐ。毎日文化祭でいいやもう」

呟いて、そこで隣がヤケに静かだなと横を向く。

「ん?あ!!ちょ!ローどうしたの?」

「気持ち、わりぃ」

「保健室ー!」

ローを運ぶために食べ物の残りを詰め込み、彼の膝裏に手を入れて抱き上げた。
ローはその瞬間、二重の意味で死にたくなったのは最早言うまでもない。

(もういっそ記憶が無くなれば楽になれるのに!)

涙は流さなかったが、男のプライドが置いて行かれた。


保健室にローを連れて行って、診断は暴飲暴食であると分かった。
周りは遠に分かっていたが知らなかったのはリーシャだけである。
ローはリーシャに吊られていつもより過多に食べた。
それを全く毛程も知らないので弱いんだなローは、という認識になった。
ロー三度目のいっそ記憶を以下略である。

「ロー、無理してたなら言ってくれれば良かったのに(身体が弱いことを)」

「言えるかよ(こいつより食べれないなんて男が廃る)」

「そんなことない!私はローの事、どんなことがあっても見捨てたりしないっ(今まで私に合わせてくれてたんだきっと)」

「…………リーシャ(それってもしかして俺のこと)」

「でも………これからは私達、距離を置いた方がいいんじゃないのかな(このままだとローが死ぬ)」

「は?(上げて落とすって奴か?)」

「このまま居ても良い事なんてないよ(私になんか合わせてなんて、酷だよね)」

爆走な日常はローにとって負担になる。
といった具合に見事にすれ違いを起こしている二人に突っ込む要員は不在だ。

「な、ん」

「え?」

ローに告げて直ぐ、掠れた声音が耳に通り、上を見る。
怒気に縁取られた強面と対面し、眼を白黒させた。

「お前を邪魔だとか思った事はねェ。お前はあるのか?」

怒っている理由がさっぱり分からない。

「邪魔なんてない。とっても、ローと居るのは楽しい」

「なら、なんで離れるなんて言った?」

「だって、ローは男の子だし。私が傍に居たら……同性と話すのだって難くなるし」

貴重な学生という時間を過ごさせるのに、自分が隣にいる必要性は感じない。
いくらリーシャの恋愛事情を知っているからといって、ローもそれに付き合い、青春を無くす事はない筈だ。
所謂遅咲き希望の自分が居たらローまでそれに付き合ってしまいそうだと思う。

「ふざけんな」

「え!いや、そんな怒るなんて…………えーっとごめんね?」

どうやら失言したと思い至り、ローを窺うために姿勢を低くして覗き込む。
グイッとその瞬間前方に引かれる。
身体がローが居る場所へ傾く。

「あ、危な!」

衝撃を予期して眼を強く閉じた。
ふにっと顔がベッドに落ちたらしくベッドinキスをしているようだ。
眼を開けると視界がヤケにぼやけるものの、ベッドではないと知る。
なら、ローに支えられているのか。
背中に添えられて入るローの手が強く身体全体を包んでいる。

「っん?………………!」

体勢を理解していく内に、ベッドではなくロー本人にキスしているという事実を知った。
これは所謂事故チューなんじゃあ!?
謝ろうとして離れる事から始めようとすると、頭を押さえつけられた。
違う、これは事故なんかじゃない。
彼はワザと故意に身体を引っ張ったのだ。
ジワリと顔が赤くなる。

「!………っ」

肩を押して離れようとしても駄目だ。
そうして長い、二分くらいの間、経過してから漸く離れる。

「………なんで、こんな」

「もう限界だったからだ」

何の限界だろう。
唖然となる思考と、冷静となる思考。
ちょっと整理させて。


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