ガラスの靴は脱いだのよ | ナノ
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後ろを向くまでもなくローの声と共に横に並ぶ気配。

「それ半分持つ」

「ありがと、はい」

半分より少し少なめに渡すとローは微かに停止してゆるりと手にする。
まるで少なめにされて納得出来ないと言っているようだ。
それが想像出来て忍び笑いする。
別に資料くらい持てない程か弱くないしローにわざわざ持てないものを持たせる心の狭さは持っていない。
困惑しているのが透けて見えているので分かりやすいなー、と微笑ましくなる。
こういう何気ない時間が今の自分には心地良い。
コツコツとローと廊下を歩く音がBGMとなって安らぎを覚える。
こういうのは前世から望んでいた騒々しくない生活。
当たり前を当たり前とならない雑音だらけの残酷な世界から閉鎖的になってしまっているものの、安らぎと平穏をずっと感じて生きていける世界だ。
特にこの国は暴力はあるものの、銃を携帯してはいけないという決まりがあるお陰で有意義である。
その間は生ぬるいが安静安泰であろう。
資料を仕舞う為の資料室の前に着いたので片腕を使って扉を横に動かす。
ガラララと音を立てて開いたら四つの目がこちらを見ていた。
暫し見つめ合う事数秒、先に声を出したのは他ならぬ四つの目の内の二つ持ちの男の子の方で驚愕と戸惑いとのパニックに怒鳴り声という結果が生まれたらしく「何なんだっお前っ!?」という引き攣った声音に上塗りで空間が満たされる。
リーシャは何も言わないのは別に怯んだとかいうくだらない理由ではない、只単に呆れて呆れて侮蔑の気持ちが湧いたから絶句しただけだ。
こんな密室で男女が二人きりという学生としてアウトなのに馬鹿みたいに怒鳴るなんて本当に馬鹿だろうと内心本当に救えないなー、と思う。
しかも問題はそこに留まらなくて女の方は例の厄介な逆ハーレム転校生だ。
そもそもまだ生徒も少なくない時間だし、いつ誰が此処に来ても可笑しくないのだからたまたま此処に来たのがローと自分だったというだけだ。
彼は残念なのかこちらを追い出そうと睨み付けている。
睨まれる何て逆恨みも甚だしいから。
ムカッ腹で煮えたぎ らせているとローがぽつりと「風紀委員長じゃねェか」と呆れた様子で言うのを聞いて風紀を風紀委員長が乱してるんかい!と更に突っ込む。
一番手本を示さねばいけない立場の人間が資料室で何をやっているんだか………。
飽きれて物も言えないでいると例の風紀委員長は更に怒鳴る。
琴線に触れたのかもしれないが怒鳴れば怒鳴る程品位や人格が損なわれていくのを理解出来ないお馬鹿さんだと底が知れるな。
第三者に目撃されたからって即効で出ていけばローもリーシャも噂や今の出来事を言う性格でもないのに勝手に想像しているのかもしれないが見上げた開き直り方だ。
そっちの状況を棚に上げて「君達だって放課後にこんな所へ来て何かするつもりだったんだろ?」なんて言う物だから勝手に決め付けられたその発言にカチンと来た。
大人しく聞いていれば付け上がる子供ガキ には少々お灸を えてやろうではないか。
邪悪な笑みでスゥ、と息を吸う。

「私達が此処で変な事をする為に使う?貴方達と一緒にしないでもらいたい。そもそも私達の持っている紙の束を見てそんな発言が出たのならまあおめでたい早とちりですね?そんなに自分達のやってる事をバラされたくないのならもっと違う方法があったでしょう。ですが、そんなに私達の事に興味がおありならばこの紙の束を渡してきた先生に一緒に会いに行って私達がこの部屋へ来た理由が何故なのか証明して頂く為に貴女達の心が済む限り何度でも説明してあげますよ?でも、あまり私達に構い過ぎてはこちらも面倒なので、先生についでに今の事を説明しにいきませんか?だって私達だけが此処にきた証明をするなんて不平等ですのでね。どうですか?先生の所に行きます?それとも私達の事を忘れて今直ぐ此処から出ていきますか?では五秒で決めて下さいね?いーち、にーい」

数えだすと男女二人は足を解れさせながら出ていった。
廊下の角を曲がるまで見届けているとローがクツクツと笑い出す。
やがて腹を抱えるような笑い声の音量になると余程愉快だったのかなと苦笑。
此処まで言ったのは何よりも自分のプライドを傷付けられたからに他ならないし暴走し過ぎたとも思わない。
音量が小さくなり始めると彼は資料室に入りそれに続く。

「あー、くそ。腹痛ェ」

「そんなに笑ったら当然だって」

爆笑というものをしたらそれだけ腹筋が使われる。
お腹も痛くなる筈だと笑みを浮かべて非難されなかった事でこっそり安堵をすると、ついで資料を並べて部屋から出る。
先程の人達のように誰かに誤解されるのは嫌であったが故の行動だ。
ローも意識したのか直ぐにやってきて扉を閉めた。
己の自覚している性格は即決と我慢が出来ないというのがあるのを自覚していたが、言われっ放し、しかも濡れ衣に逆ギレのコンボだったのもあって言ったである。
自分達のことを棚に上げた名誉を毀損きそん していく内容は聞いていて深い過ぎた。
ローも恐らく同じ気持ちだったのではないだろうか。
ローにもローでプライドがあるのだと短いながらもその内面は理解しているつもりだ。

「でもさ、あの子が転校してきてから若干学校全体が不健全になったよね」

「全くだ。おまけにおれにも絡んでくるから余計にムカつくしな」

うんうんと同意するとローはやっぱりお前は面白いな、と感慨深そうに頷く。
面白いのは自覚している。
少なくともこの世代の子達よりも大人としての責務や達観はあるだろう。
あと、良く回る口もある。
クルクル回ったからこそ学年の上である先輩風紀委員をコテンパンに出来た。

「面白いのが取り柄だしね」

カラカラと笑って言うとローは途端に顔を真面目にキリッとさせて立ち止まる。
もう何も持っていないので視界を阻害するものはないので良く見えた。
ローはとても格好良く見えて、今更ながら立ち姿は絵になる。
自分の彼氏としては本当に勿体無い思いがした。

「いや、お前の取り柄は他にある」

いきなりそんな事を言い出したローには驚いたが、褒められたと分かったので照れつつそんな事無いよと謙遜。
そこまで言われる程自己評価は高くないのだ。
テレテレとしているとローはまだ引き締まった顔をするのでどうしたのだろうと首を傾げる。

「おれはお前が思うよりもずっと……女として惹かれている」

「…………………えーーっと」

ヤバイ、予想外過ぎて言葉に詰まる。
でも、此処まできて言葉の意味が分からないなんて程己は鈍感でない。
つまりは、分かったからこそ今、顔が真っ赤になっている訳で。
言葉を失ってしまった。
何かを言おうとしても喉がつっかえてしまって言うべき何かすらも出てこない。
いや、何を言えというのかと困った。
此処は背伸びをしても何か絞り出さねば相手に申し訳ない。
ここは余裕を見せておかないと。
テンパっている脳の会議では結論が弾き出された。

「ありがとう。これからは女子として少し自信が持てるよ」

ニコッと笑みを保ちながら何とか言い切れた。
内心とても深呼吸したいのを我慢。
ローはその言葉に対してぽかんとした後、怪訝に眉をひそ めてこちらを凝視してくる。
そういう事を聞きたいんじゃないとオーラを醸し出しているが、どう言えばいいんだろう。
嬉しさと戸惑いでいっぱいいっぱいなのに。
少し考えてむーんと唸る。

「そ、の………意味はうん、理解してるんだよ………うん………私、魅力的になってきたかな?」

ははは、と乾いた声でローを見る。

「ローも、カッコイイって思ってるよ」

褒め返す。
うむ、どこも変な所はない言い回しだ。
ローはそれを聞いた途端に眼を見開いて耳まで赤くするので驚く。

(え?うっそ……)

まさかの予想外な反応にこっちまで赤くなる。
ヤバイ、どうしよう、キョドった。
言葉が何も出てこないし焦る。
グルグルと回る思考にどんどん赤くなるのが止まらない。
混乱の極みになると逆に冷静になれた。

「……………………」

「……………帰ろうか」

「………だな」

お互いこれ以上ここに留まる理由もないので歩き出す。

「あ」

ローが突然帰宅の道で声を上げたので立ち止まりどうしたのかと聞くと、シャーペンの芯がもう無いので文房具店に行きたいと言うので、なら付いていくと頷く。
リーシャも日々学校でサボっていた時とで比べ物にならない程消耗していくペンやノートやマーカー達に補充を余儀なくなれている。
働いてもいないし、学生なので選ぶ時は性能重視なので買う時はあれやこれやと比較して選ぶのが楽しかったりする。
ローはどう思っているのかと文房具店の中でチラ見すると、彼はぼんやりとした眼で眺めてはペンを手に取りクルクルと回して見ていた。
芯も見ていて楽しそうには見える。
彼と学校生活をして充実しているなあ、と回想。
買い物を済ませて店を出るとローが袋から何かを取り出して差し出してくる。

「あ、可愛いね、それ」

文房具店は雑貨もあるので色んな物が売っている。
そこへも買いに行ったのだろうローの手の中にあったのはフカフカしている小さな人形でクマのデフォルトされた物。
頭の所に輪っか状の紐があって鞄等に括りつけられる仕様になっていた。
もしかしてくれるのかと上を見上げてくれるかと聞くと、こくりと頷かれる。
有り難くそれをもらい、これが何気なく初めての彼氏からのプレゼントだと認識したのはそれから三日後であった。


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