ガラスの靴は脱いだのよ | ナノ
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文化祭の準備期間もそろそろ終わりかけで、文化祭の開催日が近付いた日。
クラスでは閑散としていた。
何故かというと、文化祭前に券を買う為だ。
抽選があって、それに参加したいとクラスメート達が券の売られる場所まで赴いているせいで人が居ない。
ローもドフラミンゴ達に買えと言われているからと向かったので今は居ない。
ぼんやりと窓の外を眺めていると後ろから甘ったるい声が聞こえて向く前に顔を顰めてから普通に戻して何食わぬ顔で対応。
目に写ったのはニコニコと笑う転校生。

「リーシャちゃん。私、貴女と二人で話したい事あるんだあ」

「却下の方向で」

「え?」

まるで断られる訳がないという雄志っぷりである。
キョトンとしているのを見て、何故二人きりにならねばならないのかと呆れると彼女はまたニコッと笑みを浮かべて言う。

「そんな事言わずにさあ。ね?ほんとにちょっとだけだから」

「じゃあローも一緒で良いよね、勿論」

こちらもニコッと笑って対応すると笑顔を保ちつつもヒクリとなる口元を目撃。
もし、これでノコノコと付いて行ったらダメフラグ真っしぐらなのは少し考えれば分かる事。
この子のもこの子でこんなに分かり易い呼び出しをストレートにしてくるなんて……なんて<馬鹿>なんだろうか。
手紙でも書いて適当にロッカーでも下駄箱でも机にでも入れればそんな手間を掛けなくて済むのに。
少し考えれば分かるのに頭はそんなに賢くないのだろうと薄々感じていた事を抱く。
これで万年トップクラスの成績を持つローと対等に話して横から攫おうと良く思えたものだ。
こっちも人の事が言えたような成績でもないが、今の自分は普通に勉強しているし、爛れた事をやっている訳でもないので言える。
特に、こちらに害を与えそうな子には厳格に冷静に対応するのがセオリーだ。
頭がカッとし始めているのだろうハーレム娘は段々口元の笑顔が崩れてきた。
女優のレベルも低いようだ。
ざまあみろと口悪く思っていると教室にローが入ってきてサラサの近くに居る事に疑問を抱いている表情をしながら近付いてくる。

「あ、ローくんっ」

「突然大きな声を出さないでもらえるか。耳が痛ェ」

煩わしそうに言う彼に唖然とした顔をするサラサに内心噴出。

「あー、テンドウさん。で、私、いつ貴女と会えば良い?今?(ローってばナイス過ぎ)」

これで諦めてくれれば良いが、果たして諦めるのか定かではない。
内心お腹で笑い、ローに聞こえるように言う。
これはサラサに呼び出されているんだけど、という保険とアリバイだ。
何かあるかもしれないので証人は多い方が良いだろう。
ふう、と息を吐いてローを横目でちらりと見ると冷たい目でアリサを見ていた。
眼光にたじろぐ少女は「急ぎって訳じゃないから気にしないで」と上擦った声を発してから逃げるように目の前から居なくなる。
連れ込もうとしたのに何たるメンタルだろう。
ローに悪事がバレたくないと言わんばかりである。
ふふん、と勝った事に優越感に浸かる。
ローの方を向いて居なかった時の事を言おうと笑う。

「何もされなかったか?」

「うん。でも、何か動き始めたって感じ」

「動き出した?」

「ほら、ローをハーレムに入れる為には先ず彼女をどうにかするって考えるのが道理でしょ」

「なる程な」

心得たといった様子で納得してもらえて良かった。
ローもハーレムというのを理解しているのには少し驚いた。
でも、サラサの態度と男達を侍らしているのを見ると分かる人には分かる光景だ。
そういうのを察しやすい人で良かった。
攻略者という人間にはありがちではあるが、話しを聞かなくなるという恋は盲目モードになってしまうから、何を言っても無駄になる。
という、所謂世界の強制力なんて言われているが、今回も少しくらいはサラサの周りに居る男子達にもそれがかかっている可能性が高い。
だって、こんなに一人の女に対して群がるなんて、とっても異常だ。
それに、中には気弱そうな積極的に見えない男の子もサラサの為に身を粉にして貢いでいたし、強制力というより魅了の何かをサラサは放っているのかもしれない。
そんな健気な男子を手で転がしているのを目撃しているので性格が悪いのは分かっている。
決して一人で彼女に会う気は毛頭なかった。
よもやこんな風に考えているとは相手も考えないだろう。
こっちはやっと真面目に学校に言って学ぼうと思い始めているのに、それを只の転校生に邪魔される権利など無い。
正当性を持っていれば何とでもなる。
ローはまだ不安がって仕切りに本当に何もされていないのかと聞いてくるので、本来狙われているターゲットであるローは責任を感じているのかもしれない。
大した事もやってこなかった自分に対して随分過保護に聞いてくるんだなと感心と共に嬉しくなる。
そう言えば、ふと思ったが、ローは仮にとは言え恋人であるものの、それと同時に友達と呼べる存在なのではないかと考えて、確定した。
本人に違うだろと言われてしまいそうではあるが、そうだったら嬉しい。
恋人という関係が嬉しいかと聞かれたら……まだ答えは出せそうで出ないと思う。
ローはきっとどっちの答えでもシレッとしそうであるので、自分の気持ちを白黒付けて置きたいという思考。
あの海水浴以来、ローが格好良く見えたり頼りになると淡い想いを感じたりする事があって、リーシャ自身戸惑っているのだ。
そうやって整理をしているとローが思い出したように破顔してコラソンさんが帰ってきたんだと報告を受ける。
やたら嬉しそうだ。

「ああ、例の幹部の人ね」

「予定よりも遅れて帰ってきたから途中から今年はもう会えねーのかとハラハラしたもんだが。久々だった」

それは会話した時の興奮を思い出しているからか、物凄く破顔している。
斜め横に座っている男子がローを見てしまい、二度見してまで驚いていた。
確かに、いつものローは口元がムッツリ気味で無表情が多い。
驚くのも二度見するのも分かる。
嬉しそうなローを見るとこちらも嬉しくなってきた。
良かったねと声を掛けると彼は僅かに瞠目させてゴクリと喉を鳴らしたような気がする。
それも喉が乾いたから喉仏が上下したのか。
ローを観察して推測していると彼は俯いて少し用事があると何かに追われるように教室を出た。
お花を摘みに、と考えて納得したので栞を挟んでいた本を取り出して暇を潰す為に思考はそれだけに集中される。
ペラリと捲っているとクラスの女子で三人組がこちらにやってきて楽しそうにやってきた。

(何言われるんだろ)

こうやって考えている間にも彼女達は話題を言いたそうにしている。

「ねぇ、二人って付き合ってるんだよね?」

(数ヶ月前は口が裂けても言えなかったけど、私の雰囲気が変わったから聞きに来た訳か)

納得して脳内会議をする。
こうなる事は薄々分かっていたがこんなに早い時期だとは思っていなかったので具体的な言葉を考えていなかった。
どう言った方が良いのだろうと考えて、ローが迷惑に感じない言葉を選ぶ。

「うーん、そうだねー………貴女達は好きな子は居るの?」

「え?好きな子………私は居ないな」

「え、えっとお」

「あ、居るの?居るんでしょ?」

「ひ、秘密!」

「え!教えてよ!」

きゃいのきゃいのと騒ぐ女子に勝手に盛り上がったなと内心頷き本へ目を向けて蚊帳の外。
子供は話題が直ぐに変わるし、移りやすいのでこんな感じで話題を逸らせる。
多分、もうこちらの好奇心は失くなっているか、後から気付くかだ。
そんな些細な違いはどうでも良いだろう。
一日が過ぎても同じ質問が来る事はなかった。
人間の好奇心の集大成の欠陥だ。
放課後に古典のお爺さん先生(皆が行っているあだ名)に頼まれて資料を戻しに行く。
あの歳だと階段がキツイと云々長く続けるので早めに切り上げて早足で資料室に向かっている。
途中、男子生徒と話しているのを見かけると話の邪魔をするのは悪いと通り過ぎようとすると、彼が友達の話しを終わらせるのを耳に聞いて、もしかして気付いたのかと予想して前を見ていると、後ろからペタンと上履きのゴムが地面を蹴る音が二重に聞こえた。


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