ガラスの靴は脱いだのよ | ナノ
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次の日も次の日も電波系転校生の目をかい潜ってローの家に遊びに行った。
家には先客が居てドフラミンゴと話していたので直ぐに気が付く。
どうやら風貌が堅気じゃない、怪しく危険な匂いがする。
タバコ……いや、これは葉巻だ。
随分と懐かしい物を吸っている人だ、後ろ姿しか今は見えない。
ドフラミンゴがこちらに気付くと葉巻を吸っているらしい御仁も振り向く。

(!……随分と因果があるな……)

此処に来てまだ会ってしまう自分の運の無さに笑えてくる。
その人はオールバックの髪型、顔には傷痕、豪快に太い葉巻を吸っていた。
手を見たらフック(鍵爪)はなかったが、両手はちゃんと付いていた。
宝石がデカデカとあしらわれた指輪を付けている。
悪人顔は健在らしく、ダルそうな顔つきも変わらない。
懐かしいその雰囲気と葉巻に目を細めているとその相手と目が合う。

「ドフィ、客か?」

「どっちかっつーと同盟の相手だ」

ドフラミンゴはサラリと言う。
まるでそんなのへでもないと言う風に吐かれた単語に内心腹を抱えてむせび笑う。
内心なので表にはお首には出していない。

(同盟?あっはっはっは!)

笑えた、凄い笑えた。
水と油のような男達からは凡そ想像が付かない言葉だったのに、今になってそれを聞くとは、人生、何が起こるか分からないもだな、と内心ヒーヒーとお腹を捩らせていた。
そんな事を思っている等とは百パーセント思っていないであろうロー達はその間にも何か話していたが内容等聞いてない。
ローはドフラミンゴから何か聞いたのかとても嬉しそうな声音でこちらを向く。

「コラさんが帰ってくる!」

「…………えっと…………」

返答に困っているとそれに気が付いたローが少し赤くなる。

「悪い。当然知らねェよな。コラさんは四年前に海外へ単身赴任した内のファミリーの一人だ。つまりは社員だな…………いや、幹部か」

「へぇ、でも何か、ローすっごく嬉しそうだね?」

「当然……!何たって四年ぶりだ。俺の大好きな人だ。リーシャにも帰ってきたら絶対紹介する」

待ちきれないと副音声が聞こえてきそうなくらい嬉しそうに言う彼にこちらも楽しみだと思った。
ローはどちらかというと愛や好きというのを自分から表さないタイプだと思っていたのでそんな感情を露骨にさせるのを見るとは思わなかった。
余程好きな相手なのだろう。

「女の人?男の人?」

「男だ」

「そうなんだ。女の人だと思った」

やけに嬉しそうにしているから初恋の人かと思えば男の人なら敬愛であろう。
ローは頬を赤らめて興奮していると手に取るように分かる。
彼は興奮しているのを自覚したらしく恥ずかしそうにコホンと一旦仕切り直す。

「まァ、取り敢えず今日は俺の部屋に行くか」

その表情と掛けられた言葉に内心和んでいると彼はフイッと顔を前にして歩き出す。
ふと視線を感じて横を向くと気怠げな目とかち合う。
どう見ても普通の女がこんな所に居るのが珍しいのだろう。
クロコダイルは視線を向けるのを止めて葉巻をスパーッと吐いた。
まあ交わる事も興味を抱くような何か等無いから当然の反応で対応である。
ローに部屋を通されていつものように出された宿題に取りかかった。
学校では当然のようにほぼ毎日宿題、叉は課題はを出されてそれをやると次の日の授業の進み具合も理解の程も変わる。
しかし、周りは課題や勉強が好きではないらしく、何か課題を出すと言われた日には嫌そうに声を出し、態度が乱雑になるのだと知った。
その後の授業もどこかやる気が削がれて、各教科の担当者達も苦笑したり、関係なく授業をしたりと様々だ。
ノートを開きシャープペンをカチカチと押して芯を出す。
シャープペンも年々進化しているし、書きやすく、芯の細さも違う。
ノートも書きやすさを追求し、鞄も違う。
羽ペンを使っていた記憶がある中での、この高度な進化というのに感嘆せざる終えない。
しみじみと感じていると部屋にローが入ってきてお盆に何かの飲料水がコップに入れられている。
その他にはお菓子だろうクッキーやキャンディがお皿に入っていた。

「ありがとう。相変わらず美味しいクッキーだし、私これ凄い好き」

「嗚呼。美味しそうに食ってたからまた頼んでおいた」

食べる事が何よりも好きだからその気遣いはとても嬉しい。
早速テーブルの横に置かれたそれに手を付けてクッキーを摘まむ。
口内に広がる甘さと香ばしさに噛みしめて咀嚼。
コップの中身を飲んでローに勉強を教えてもらおうと声を掛けた。



文化祭の雰囲気が濃くなってきた今日。
既に映画という映像を取り終えた今、クラスではパンフレットの作成に勤しんでいた。
ローを「監督」と呼ぶ子も居て、初めはもう監督ではないと言っていた彼は、暫くして無くならない呼び方に諦めを付けて好きに呼べば良いと疲れた様子で告げたのはまだ記憶に新しい。
パンフレットは映画風の少し古い時代を彷彿とさせるものだ。
撮影の位置や撮り直しはロー監修の元で行われ、また『監督』の復活だと盛り上がっていた。
その時には前々からそうなるとは思っていたが、当然転校生が来る前だったので彼女はポカンと取り残されていたのでその時は流石に可哀想だなと思ったものだ。
それをローは見ていたのか気にするなと言われて気にするのを止めた。
彼女にいつ何をされるのか分かったものでもないし、ローにとって害のある人はリーシャの敵である。
今の格好良かったかな?

「リーシャ?」

「あ、うん。食べるよ、うん」

女子の間で人気のクレープ屋さんという事で誘われた。
ローにだ。
まさか男子のローがそういう事を聞いたり情報を知っていたりしたのはとても意外である。
多分、前よりも話しやすくなったとクラスメートに言われている事が大きいであろう。
ローが美味しくなったかと聞いてくるので違う違う、と首を振る。
美味しくない訳もなく、とても美味しい。
特にホイップクリームの甘さが堪らないので、かなり好きだ。
ローは普通らしい。
家に専属のコックが居るらしいので舌は肥えているから故であろうが。

「一番高いクレープありがとう!すっごい美味しい!」

学生の身で五百円のクレープを食べれるなんて贅沢だ。
高いアイスクリームでも三百円なのに、五百円は凄く贅沢だ、大切なので二回言う。

「いや、モネ達にこういうの食べさせろって言われたしな。ドフィからもそれなりの金貰ってるし、折角だから使ってしまおうとな」

ローは澄まし顔で言うのでそれが想像出来てクスッと笑ってしまう。
それにローも笑うと最後の一口を食べた。
その時、後ろの向こうから甲高い声が聞こえてきた。
聞き覚えのある「あー!トラファルガーくんだあ!」という言葉の羅列に頭痛を感じた。
健康的な体なのに頭痛がするなんてストレスだろうなとげんなりする。
隣のローを見ると無表情でいながらも手に持つクレープを入れてあった包装紙がグシャグシャになっていた。
かなりの力で握ったからだろう。
それくらいローにもストレスを与えたという事だ。
声の主はこちらに来る足音と共に止まる事無く駆けてくる。
見つかりたくなかったが、今回は逃げ道を無理矢理作るしかない。
此処まできた転校生は「あ、リーシャちゃんも居たんだ?」と今気付いた風に言うが、目が普通に見えていたら二人居ると初めに見えていた筈。
ということは、お前はお邪魔虫だと暗に言われているも同然という事。
そんな遠回しの言葉ににっこり笑って「うん。居たよ」と当たり障りの無い言葉を掛ける。
牽制なんてリーシャには無意味である。
それに、この子は何気なく何の許可も無く人を名前のちゃん付けで呼んだ。
いつ、それを許した?
許した覚えなど全く全く無い。
許可していない呼び方は不快で、親しくも無い癖に呼んで欲しくない。
キッドの彼女のマリベルになら是非呼んで欲しい所である。

「デンドウさんも今帰り?」

「うん!あそこのクレープ屋が美味しいって聞いてね!あ、それ、食べたの?どうだった?」

「美味しかったよ。デンドウさんも食べたらどう?」

そっちが遠慮しないのならこっちも遠慮しない。
笑って進めるとそうだね、と反対を見る。

「ノボルくん!こっち来て!」

「サラサちゃん、突然走り出すなら言って欲しかったな……」

押しに弱そうな男子がこちらへ寄ってきた。
明らかに緊張している。
多分カップルの間に入って話す事に慣れていないのだろう。
こちらを気遣う視線がチラチラあっても転校生サラサにはそのスキルはスルーされる。
構わずあそこのクレープ食べたいと強請るサラサにノボルくんとやらは頷く。

「でも、サラサちゃん。昨日もアイスクリーム買って、僕、お金がそろそろ……」

「……え?そっか?買えないんだ?」

声が冷たくなったような。
背筋が寒くなるような。
ノボルも感じたのか目じりが引きつる。
ローには理解出来たか分からないが、ノボルは見放されると感じたに違いない。
ローにこんな声を出されたら見放されたと感じるし、誰だってそれは嫌だ。
となれば、ノボルは。

「わ、かった。うん。大丈夫みたい。ははは。買えるよクレープ」

「わ!本当?高いの食べたいなあサラサ」

男もイチコロな笑顔を浮かべたサラサを見て先程まで金欠に青かったノボルは顔を赤くして喜んでいた。
利用され過ぎである、ノボルよ。
早くサラサの誘惑から逃れられるように祈っておく。
クレープ屋に向かったサラサ達を見送ってから急いでこの場を離れた。
離れた後でローが眉間に皺を寄せて「女って」と何か言い掛けた。
それに慌てて「ああいう人は希だし!」と言っておく。
如何にも魔性の人間何てそこらへんに居る訳ない。
居たらこの国の男性や男子は泣いているレベルだ。
ローは慌てるこちらにククク、と笑って分かっていると言ってくれた。
それなら良いのだが。

「私は少なくとも魔性じゃあ無いからね!分かってると思うけどさ」

「そうか?おれん家の奴らに気に入られるお前も結構人タラしじゃないか?」

「愛嬌六十パーセントで好かれてます!」

「残りは?」

「餌付けさ」

「…………………………頼むから、将来あいつらに飼われるなんて言い出すなよ?」

言った言葉に心当たりがあるのかローが真剣な顔で言ってきた。
それに冗談なのにと笑ってしまった。


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