ガラスの靴は脱いだのよ | ナノ
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文化祭の準備を始めて一ヶ月半。
着々と学校が文化祭の色に染まってきた。
生徒達が頬を染めて語らうは文化祭のどこを周ろうかという相談。

「いいなあ………」

行き交う女子高生、男子高校生達。
楽しそうだ、羨ましい。
窓から見ているとサラサが男子生徒に囲まれて校庭を歩いているのを見て「あれは羨ましくないなあ」と呟く。

「確かにあれは羨ましくないな、フフフ」

斜め後ろから聞こえてきた声に振り向かず同意。
彼はハーレム集団になりたくないからサラサを避けているのだ。
入りたくないし良いと思わないのがローの本音であろう。

「女子から白い目で見られてるっていうのに不屈なメンタルだよね、あれ」

行き通った場所に居る生徒からヒソヒソと囁かれて白い視線を浴びているのは此処からでも分かる。
こんなに早く本性を晒す何て思わなかったので、少し驚いた。
もっと隠して隠してずっと隠したままかと思っていたが、彼女が自重しなくなったのはローに構われなかったその後直ぐだ。
もしかしたら全力を出さないと落とせないとでも思ったのかもしれない。
それであの光景ならば本気を出しても空回りであるし、今の所、ローに対しては無効である。
そもそも、猫撫で声を出している事に気付いているローに近付くのが失敗なのだ。
そんな事を考えているのは文字通り手持ち無沙汰だからである。
パンフレットとチラシを作ってしまえばもうやる事はほぼ無い。
暇なのだ、つまり。
ローが首をもたげて窓の外を見ているとサラサが立ち止まる。
何かを見つけたのか楽しげに見ていた。
その先にクール系無口イケメンが居たので(ターゲットか……)と察する。
しかし、その無口はサラサが話しかけても特に何の反応も示さない。
その態度にサラサの逆ハーレム集団が「無視してんじゃねーよ」的な事を言っているのだろう、睨み合っていた。
リーシャは傍迷惑な集団だなと眉を顰める。
無視しようが関係ないのに。
話しかけられたけれど無視するのは別に自由なのではないか。
ところで、話しは変わるけれど、暇なのは理由があると先程提示したが、もう一つある。
それは授業が無い事だ。
文化祭の準備期間は合間合間に準備をする時間が設けられて通常の生活ではなくなる。
映画という選択を取ったこのクラスは文化祭準備期間時間は暇となるのだ。
リーシャはその間何をしているのかというと、図書室で借りてきた本を読んでいる。
それを見て怖いものを見たようにクラスの人間から見られていたが、二週間後くらいには皆慣れたのか普通の視線になった。
良い兆候であろう。
内心嬉しかったが、ニマニマするとまた怖がる人が出てくるかもしれないのでお首には決して出さない。
本は様々で、例えば歴史を漫画にして読み易くした本。
有名所の童話。
真っ当な文学の本は残念ながら相性が悪いので読まない。
目を通したのだが、眠くなる。
凄い呪いよりも効き目があるのだ。
そんな訳で、本を片手に時間を潰している。
ローは勉強をしているのか『映画の歴史』というタイトルの本を読んでいた。
彼は秀才だからきっと頭に入れてこれからの文化祭を乗り切るつもりだと感じた。
でも、今頃映画関係の本を読んでも、とっくに撮っているのだから関係ないと思うのだが。
幾つか疑問が残るけれど、ローの顔が楽しそうなので言わないでおく。
前の何の目的も持たない人間の目から本能が疼くような目をしている。
良い兆候だ、これも。
ローの死んだような目(リーシャの偏見)が此処まで来ると漸く普通になるのだから、安泰であろう。
きっとドフラミンゴやモネ達も喜びそうだ。
ローの本を読んでいる所を見ていると視線を感じたからか本から目をこちらへ向けてきて「どうした」と訊ねてくる相手に「ううん」と含み笑いで返す。

「口元が笑ってるが?」

「将来は安泰だなって想像してるからね」

「将来?そういや、進路とかはもう決めてんのか?」

思わぬ事を不意打ちで聞かれて驚いたけれど、一応決まっている。

「専業主婦」

「…………いや、そういう意味で聞いたんじゃ………ねェけど………主婦に本気でなりたいのか?」

職業とか、大学方面で聞きたかったのかもしれないと気付いたけれど、そこは全く無計画の白紙状態だ。
今の頭脳で行ける場所などそもそもありはしないのではと逆に聞きたくなる。

「ま、ね。大学行く頭も………行くっていう想像もないからねー」

特に何の職業に就きたいとか、そういう事が浮かんでこない。
後一年も無い期間でそれを決めるのも間に合わない。
何故もっと早く頭を打たなかったのだと皮肉さえ湧いてくる。

「じゃあ、おれの家に就職すりゃあ良い。ドフィ達だって両手で喜ぶだろうしな」

「あ、確かに動物園とか魅力的」

ローの例えかは分からないが、提案に笑う。
彼はそういう面の働き口ではなく別でも良いのではと口ごもりつつ述べる。
他の就職と言われて出てくるのはメイドであった。

「メイドになれって事?うーん、まあそれも有り?」

「メイドっつうか、専業主婦も出来そうな仕事」

専業主婦をやりつつ出来る仕事ならば動物園やメイドでも大丈夫ではないだろうか。
ローの言う言葉が矛盾を生んでいる事に引っかかりを覚える。

「ごめん。ローの言う兼用の仕事が分からないなー。正解教えて!」

難しい事は生憎得意ではない。

「………………………………………………屋敷の中の奴らの誰かと、結婚」

激しく空いた間の後に言われた内容にドフラミンゴから始まりクロコダイルに終わる顔触れが走り抜けて悲壮感を胸に抱いた。

「……………………………………………………ごめん。ちょっと、歳が離れてるかな?」

本当の理由は歳ではなく中年達の性格や人となりが原因である。
前世の事を引きずっていると言われたら違うとは断言出来ないが、そもそも恋愛対象者として些かリーシャの理想の対象から億単位のメートル程かけ離れていた。
ローの家族であるから申し訳なく思い謝ると「気にするな」と何か言いたそうにしながらも許してくれる。
少し貶したようなものなのに許してくれて良かった。
ローが机の下で手を握り締めていたのだが、それには勿論誰も気付かない。
本人は誰かに渡すくらいなら自分の物にと思っている事も本人のみぞ知る。
頬杖を立てながら持ってきていたお菓子を摘まむ。

「口元にチョコが付いてる」

「え?わー、テッシュテッシュ………」

指摘されて鞄を探ろうとしたらその前にローが取り出して差し出してくれた。
彼の女子力が高くて辛い。
でも、相性は良い。
リップクリームだって彼は持ち歩いているし、この頃は何とリーシャの分もある。
良い妻(殴られる事間違い無し)になるだろう。

「ロー、格好いい(自分には無いマメさが)」

「はっ?(不意打ち過ぎるっ)」

色々擦れ違いつつも育まれていく何か。
ローは唐突の褒め言葉に動揺して呆気に取られているが、根本的に間違っている受け取られ方をしている何て事は知らないリーシャは呑気にお菓子を食べる。
放置されて可哀想だと思っているクラスメート達がちらほらエールを送っていた。

「どこら辺が、格好いいんだ?」

「んー?え?何の話し?」

会話に間が少し空いたせいで話していた内容が噛み合わなくなり、二度目に同様の事を聞く事が出来なくなったローは力無く俯き何でも無いと言わざるおえなかった。
だからローにはエールが増えていくのである。

「文化祭が終わったら直ぐに体育祭かあ。私、実はスポーツ好きなんだー」

「そうなのか?(化粧厚塗りしてた頃に汗をかくのは嫌だって言ってた気がするが………聞き間違いか)」

ローは僅かな違和感に今更だと忘れる。
リーシャはというと、文化祭の楽しさを知らないのでその先にある体育祭が待ちきれないと期待に胸を膨らませていた。

「…………パン食い競争が有るなら食べたい」

「出たい、だ。それを言うなら。衛生面が不安だがな」

やはり食い意地を発揮させているリーシャは目先の食べ物が何より気になる。
今年は親が来るらしい。
更正したから来てね、と言った所、凄く喜んでいた。
父親も来る。
反抗期を終えたと実は思っている両親は娘の更正っぷりに驚きつつも、ギャル時代を反抗期と認識していたので異質な目で見られずに済んでいた。
まあ、運が良かったというか。
両親が娘の変化の激しさに怪しむような性格でなかったのが救いだ。

「あー、来るのか。実はおれのとこも来る。くんなって言ってるが、毎年来るんだよな………」

「何か想像出来る!」

ローの家は家族を大切にする家系のようだし。
クスリと思わず笑みが漏れる。

「今年は沢山思い出作ろうね」

「………嗚呼」

(あ、柔らかい表情)

笑みを浮かべて笑いかけてくるその様子にこちらも答える。
すると、ローがハッとしたように横を向いて目の焦点を外してしまう。

「?、どうしたの?」

「………只、今日は暑いって思っただけだ」

ローの上の空のような言葉は特に何かを思うでもなく「そう?」とたわいもなく返した。


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