ガラスの靴は脱いだのよ | ナノ
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お祭りの人混みに揉まれながら向かったのはフランクフルト売り場。
並んで居ると視線を感じる事に気が付く。
ソッと周りを見てみると女子や女性の視線がこちらに向いていた。
正確に言うとローの方に集中していて、嗚呼、と納得。
学校でもモテるローの事だ、普通にモテるんだなと改めてイケメンという事を思った。
珍獣、パンダ……そんな視線に慣れているのかローはシレッとその視線を無視している。
視線が空に向いているのを横目で見ながら彼のプロフィールや彼女歴を思い出す。
ローは学校に入学してから長くて三ヶ月、短くて一週間というスパンで彼女を取っ替え引っ替えしている世間で言うリア充だ。
しかもハイパーリア充である。
付き合う子は賢い子から普通の子、はたまた勉強が全く出来ないリーシャのような子までその性格、ありとあらゆる者を拒まない。
どんな子でも受け入れるからか、ハードルはとても低いので年中彼の隣が空く事はなかった。
リーシャの前に付き合っていた子は確か可愛い子だったような違ったような。
毎回変えているのでもう覚えてない。
ローを見ながら色々と思い出していると彼が視線を感じたらしくこっちを向く。
前に並んでいる子もローを見ていた。

「何だ」

隣に彼氏っぽい人が居るのに移り行く心の何と儚き事か。

「お腹空いたなって考えてた」

「確かに中途半端な時間だしな。俺も無理矢理これを着させられた時に抗ったから体力切れで早く何か胃に入れてェ」

何となく、モテている事を考えていたなんて言えなくて誤魔化すとローは何の疑問も持たずに答えた。
こういう所があると知って可愛いと思ってしまうのだ。
律儀に言葉を返してくるローがとても健気に見える。
そういえばローは本気の恋を見つけられるかもしれないとこの間言っていた。

「ねえ、ローくん」

「さっきまでくんって付いてなかったのに急だな」

「……うーん。何となく。駄目?」

指摘されてそこまでかな、と思いながら尋ねると彼は首を捻って「彼氏なんだから、ローって呼べよ」と拗ねた様子で呟く。
だから、こういう所が可愛く思える。
クスッと笑って「分かった。ロー」と言い直すと彼は満足した顔で笑う。
フランクフルトを買うとそれを食べながら歩く。
自分は二つ買って食べているのだが、ローは三つ買っていた。
買うときに二本追加と言った時のローの負けてしまいそうな苦肉の顔付きが脳裏に思い出される。
きっとリーシャが二本買うと知って男としての何かが許せなかったのかもしれない。
それで食べれなくなっていたのなら更に笑っていた所だが、彼はそれを難なくペロリと平らげるので食欲旺盛なんだな、と関心した。
フランクフルトを食べている時に射的を見つけたのでローにやろうと提案。
射的は小学生以来だ。
フランクフルトを買い食いするのだって久々なのだが、とても楽しい。
満喫している中での射的にローが店の店員に金額を払って玩具(おもちゃ)の拳銃を構える。
その様はとても絵になっている。
その証拠に隣に居る同じく射的の場に居る彼氏を放ってローを見ている彼女さんが居た。
これこれ、浮ついているよ君。
何て内心で言っているとローが的に向けて弾を撃つ。
当たったが、倒れない。
祭りの射的とは無情、これに極まり。

「はァ……何か損した気分だ」

割と重い景品を狙っていたらしいローは肩を落としていた。
何、仇を取ってあげようではないかと次はリーシャが長い鉄砲を持つ。
馴染む様で重さも質感も違う玩具に少し物足りなさを感じながら狙いを定める。
五回、同じ景品に完璧に当たった。
だが落ちない。
秒刻みで当てて反動を重ねたのに落ちないとは何と狡猾なのだろう。

「ちょっとおじさん、この商品取らせる気ないじゃん……」

「そりゃお嬢ちゃんが上手くないからだよ」

文句を述べて言うと相手の店主はハハハ、と笑うのでムッとなる。
こちとら本場で戦った戦士だ、上手くないとは何たる侮辱。
今の人格と昔の人格が目にもの見せてやる、と燃えたぎる。

−−パン!パン!パン!

手近で軽そうな物を三つ連続で当ててからどうよ、と店主にドヤ顔。
全て落としたので下手くそなんかじゃない。
唖然とするローと店主に「これでも倒れないんだよね?」と勝ち誇った言葉を投げかけた。
そうしてから自分のした事に「ハッ」となり正気に戻る。
苦笑してローの手を引く。

「あー……もう行こ、ローっ」

さっさと此処から立ち去る為に言いながら引っ張ると店主の声が掛かる。

「すげェな。これ、落とした景品だ!」

落とした物を持たされてそそくさと此処から去る。
ローを引いたまま歩いていると声を掛けられて振り返った。

「射的……凄いな」

「え、えー?そうかな?……昔からこれだけは上手いって近所で評判だったから……」

急遽作った言い訳を述べるリーシャ。
それにローは首を傾げて納得したようで安堵した。
それよりも花火が始まるらしいと言うローの台詞に辺りを見回す。

「何処か見つけないとね」

場所を探すリーシャにローは「こっちだ」と言う。
今度は手を引かれる番になって、人混みに押されて押し返しての末に空気が吸える事に気が付く。
全く人混みと言うのは息がしにくい程密集している。

「毎年連れ回されるから穴場を知ってる」

息を整えていると人混みとは少し間がある場所だと気付く。
見回しているとローが説明してきた。

「彼女と?」

無難な疑問にローは首を振る。

「いや、連れてくと奢れって暗に強請られるし面倒だから行かねェ。ドフィ達に……無理矢理連れ出される」

その光景がありありと浮かぶ。
今日の様な光景は良くあることなのだな、と笑う。
楽しそうな家族だと毎回思うが、イベント事には更に熱が入るようだ。
お泊まりした時も動物園に言ったときもドフラミンゴはとても楽しんでいる様に見えた。

「そっか。今年は私と行ったから家族と行けなくなったよね?ごめん」

仲が良いのを知っているから尚更罪悪感を感じてしまう。

「は?……嫌なら最初からこうして一緒に回らねーよ」

その言葉に別の意味もあるような気がして一瞬歩みが止まる。
振り返るローの耳が心なしか赤い。
いやいや、きっと暑いからだと自分を納得させる。
そっちがそういう風に見えるせいでこちらまで恥ずかしくなってきた。
雰囲気に湯気が出そうだ。
早く花火が始まれ、と祈っていると通じたのかタイミング良く花火が鳴る。

「その、言うの今更だが……浴衣、似合ってる」

上を見上げているとドーンと心地の良い音が身体を興奮させる。

「……ありがとう。ローも似合ってるからね、うん……似合ってる」

こういった風物詩がとても新鮮だ。
今なら、あの時サッカーボールに当たった事がとても幸運で、神秘的な存在が起こした必然に思え、感謝した。


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