ガラスの靴は脱いだのよ | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


夏休みの間である今、自分の家でまったりとゴロゴロとを堪能してスマホを操作していると、着信が来た音が聞こえた。
メールだったので開くとベビー5からだ。
メアドも交換してちょくちょくしている。
内容を心の中で読み終える。
ローが夏風邪を引いたから是非お見舞いに来てやって欲しい、と書かれていた。

「折角の夏休みなのにトラファルガーくんも災難だなー」

ゴロンとベッドの上に膝で立ち上がってマスクをしていこうと降りた。
風邪が移らないようにしてから家を出ると車が一台家の前に止まっていたので怪訝に見る。
家の車ではないのは分かっているので横を通り過ぎようとするも、ベビー5が窓から見えて驚いた。
呆けていると彼女は窓を開けてこちらを見てから少しだけ笑って迎えに来たわ、とシレッと言うが、さっきメールを返したばかりである。
もし、断っていたら帰っていたのだろうか。
思考に悶々としているとベビー5が車に乗るように催促してきたので熱い中を自転車で行くよりはマシだと乗った。
車が動き出すと冷房が身体をひんやりさせて快適だ。
直ぐに家に着くとそのまま玄関へ行き、ベビー5の案内で向かうとそこはローの部屋ではなかった。
病院にでも運ばれたのだろうか、そしたらベビー5は最初からそう言うだろう、等と思考を巡らせていると奥の部屋に案内される。
襖(ふすま)があってそこを開けるとメイドさんが待ち構えていてびっくりするとベビー5は「さあ、此処に立って」と背中を押されて仕方なくそこへ立つ。
何をされるのかは何となく分かった。
自分の後ろにある、展示されているような状態で広げられている浴衣があるからだ。
もしかして着せられるのだろうかと予見する。

「あの、トラファルガーくんは?」

「あ、マスクは取らないと……え?何か言った?」

明らかに誤魔化(ごまか)されて何でもないと言うしかない。
何故騙してまでこれを着せようとしているのか、彼女達の意図がまるっきり分からないのでされるがままだ。
着付けを開始して十分が経って、着せ終わったかと思えば次は髪を弄(いじ)られて髪留めや簪(かんざし)を付けられる。
かなりヘトヘトになってからやっと終わった。
ベビー5がはい、とジュースを渡してきたので遠慮なく貰う。
こくん、と飲み込むと気持ちが潤っていく。
ゴクリゴクリと飲んでいると誰かの言い合う声が聞こえた。

「丁度良いわ。アイツも無事に罠に掛かったようね」

ベビー5の言うアイツ、という言葉を聞いてから扉へ視線が向かうとバターン!と音がして襖(ふすま)が開く。
そこに居たのはドフラミンゴの用心棒と自称していたヴェルゴと、その腕に担がれているローだった。
色々揉めているらしく、ローはヴェルゴに悪態を付いている。
それを無視して歩く姿はカオスだ。
その後ろに付いていく様に歩くドフラミンゴもシュールである。
子供を無理矢理拉致している風にしか見えない犯罪臭がした。
ジュースから口を離してそれを見ていればローがベビー5に気が付く

「何見てんだベビー5。お前もこいつらと……ん?」

ベビー5のニヤケた顔に何かを感じたローに彼女はそのまま手を挙げてリーシャの方を指で指す。
言うなれば「あっち見て見ろ」的なニュアンスだ。
その指を素直に辿るローを少し可愛いな、と思っていると目が合う。
先程までの底辺を這っていた機嫌がすっかり消えて、その目が見る見るうちに開いていく。

「何で、此処に居る……!?」

「トラファルガーくんが夏風邪引いたってベビー5さんからメール来たから行こうとしたらこうなってた」

「……ベビー5」

ローの低い声がベビー5に刺さる。
しかし、彼女はウッソリと笑う。

「何よ。先に言うべき事があるんじゃない?彼女の浴衣姿について」

ローはベビー5の言葉に青筋(あおすじ)を立てて激怒(げきど)する。
リーシャを騙すな、やらおちょくってんのか!と言うローにヴェルゴが動く。
それに合わせてローも動くので目が合わなくなる。

「行くぞ、フフフ!」

「今行くわ若様」

ベビー5は答えるとリーシャの方を向いてニッと笑う。
手を出して行きましょう、と告げるので付いていく事にした。
車に乗せられては行けば、着いたのは屋台が並ぶ出店ばかりの場所。
そこで記憶の隅(すみ)にある紙切れを思い出す。
登校していた時や帰宅するときにちらりと見ていたのだが、全く興味を引かれなかったのですっかり忘れていた。

「今日、夏祭りだったんだ」

軽快(けいかい)な音楽が辺りを埋め尽くしている光景に、不思議な感覚。
浴衣と言うものを着ているからかもしれないが、夏祭りに来たんだ、と感じさせてくれた。
ローもヴェルゴに抱えられて来た時には既に同じく浴衣を着せられていたので夏祭り感がマッチしている。
ドンドン、と何処(どこ)かから太鼓(たいこ)の音が聞こえた。
少なからず自分も気持ちが高揚(こうよう)しているのが分かる。
こういうイベントに来るのも今世では小学生以来となるし、昔と違う景色が別世界の様だ。
ローはまだヴェルゴ達に何か言っている。
それをあしらってドフラミンゴが悠々と「デートでもしてこい」と述べた。
ベビー5は早速屋台に目移りしていて、ヴェルゴも何かを買おうと歩き出す。

「……お前は構わねェのか」

「へ?何が?」

「…………もういい。適当に歩くか」

何かを諦めた様子のローはリーシャに付いてくるように言う。
それに従って行くと足に履いている靴がカランと鳴る。

「そういえばトラファルガーくんも着せられたの?」

「嗚呼、昼寝した後に起きたら落とし穴があって不覚にも落ちた。んで捕獲されてこれに着替えさせられた」

落とし穴なんて、あんな屋敷の何処に作ったのだろう。
それとも工事をしたのだろうか。

「たまに変なトラップを仕掛けるのがドフラミンゴなんだ………ハマるのは久しぶりだった」

心底疲れた顔をして語るローに笑みが洩れる。
嵌(は)まった時はどんな感じで落ちたのか見たくなった。
想像をしているとローが二歩進んで立ち止まるのが見えて、同じく止まる。

「どうしたのトラファルガーくん」

「その苗字呼び、そろそろ止めてくれ」

「え?じゃあ何て呼べば?」

聞くと彼は一瞬黙ってから口を開く。

「ロー。彼氏なんだから別に良いだろ」

「……じゃあ、ロー」

彼女と彼氏になって初めて名前を言った。


prev next 【15】
[ back ]