バスに乗って一五分は経った頃だろうか、小さい頃に見たような記憶がある場所が見えてきた。
「動物園?」
「この道、道理で見覚えがあると思った」
ローはここを良く知っているような口振りで呟く。
「着いたわ、皆降りてね」
ドフラミンゴが最後に降りるとバスは何処かへ向かう。
駐車場に向かったのだろうか。
「さて、行くわよ」
モネが言うと四人は動物園の入り口に向かう。
ドフラミンゴはそこでデートだ、と言うとローが「あ″あ″!?」と凄む。
「おれと嬢ちゃん、モネとローな」
と勝手に決めてこちらへ意気揚々と来るドフラミンゴにローがこれでもかと睨む。
剣呑な空気になったところでモネの楽しそうな笑い声が聞こえる。
「若様、あまりからかうとこれから近くに寄れなくなるわよ。それくらいにしといてあげて」
「フッフッフ!そうだな。ロー、喜べ。俺達とダブルデートだ」
「は?おいっ」
モネとドフラミンゴは先に行きゲートをそのまま通ろうとする。
入場料を払わなくてはと思って財布を出そうとするとローに止められた。
「この動物園はドフィの運営する会社と直系の施設だ。まァつまり、社長特権でタダだから必要ない」
彼がそう言うので、納得しながら二人でモネ達の後に続いた。
動物園に来るのは本当に久々だ。
中学校の時にグレ出したので小学校の低学年以来である。
親と行った記憶を最後に此処の近くにすら寄り付かなくなった。
昔よりも綺麗になっていて、おまけに広くなっているようだった。
此処はドフラミンゴの経営する施設だったのかと知る。
園の中に入るとパンフレットをローから渡されて開く。
やはり広くなっているようで、昔はなかった場所に動物が居るようだ。
ローはパンフレットをリーシャに渡してから地図を見ていない。
「見なくていいの?」
「地図なんか見なくても適当に回ればいいだろ」
無心にそう告げるローに対して聞いていたのかドフラミンゴが返す。
「ロー、お前には失望した」
「いきなりなんだ、おれはお前に毎日失望してる」
その一言でドフラミンゴがモネに慰められ始めた。
「若様はこう言いたいのよ」
落ち込んだドフラミンゴの代わりにモネが口を開く。
「デートと言った手前、プランを練るのが最前ってね」
「お前等が勝手にデートだって言ったんだろうが……」
「あら、じゃあ私達だけデートになるわ。そうなったら彼女は独り身になるわよ?」
「何が独り身……」
ローの言いたい事は分かる。
確かにこの状況で色々と難題を押し付けられては辟易とするだろう。
「まあまあトラファルガーくん。デートとかは置いといて、取り敢えず今日は楽しもうよ。折角来たんだし」
ローはリーシャの言葉で文句を押し込めた。
そして、一度息を大きく吐いた後、ドフラミンゴとモネに言う。
「こいつに免じて今日はつき合ってやる」
その言葉にドフラミンゴはヘコんでいた状態から立ち直り「フッフッフ!」と笑う。
「お前もとうとう丸くなったな、ロー」
「……そのサングラス叩き割るぞ」
動物園に入場したロー達がモネに伴われてやってきたのは熊の居る檻の前だった。
「ベポ」
ローが呼び慣れた声で言うと檻に一匹しかいない白い熊がこちらへやってきた。
本当に呼ばれた事が分かったような対応に驚く。
リーシャの反応が予想内だったらしいドフラミンゴが説明する。
「この熊はな、ローと一緒に育ったんだ。園が休みの時とこの熊が園に居ない時は大抵家に居る」
「え?白熊ですよ?」
「勿論檻の中に居るが、ローの部屋の真隣だ」
「だからトラファルガーくんは嬉しそうなんですね」
「フフフ、分かるか?」
ドフラミンゴの問いに頷く。
また彼の新たな一面を知った。
ベポと呼ぶその声はとても優しい。
ローが暫くベポと戯れているのを見ていると視線に気付いたらしい彼はハッとなった顔をしてこちらを見た。
それから少し恥ずかしそうに次行くぞ、とモネに声を掛ける。
そうするとモネは首を傾げて確信犯の声音で「いつもはもっと長く話しているのにもういいのかしら」と聞く。
それにローは「あァ」とリーシャから見ても名残惜しい表情で答えた。
「またいつでも来れる」
その言葉にローは歩き出した。
モネもにっこりと笑って案内をする。
ドフラミンゴと並んで歩いていると、その事に気付いたローがこちらへ来て隣に並ぶ。
ドフラミンゴはからかう様に「モネと歩いても別に構いやしねェぜ?」と言うと、ローはフンッとドフラミンゴを無視した。
「可愛くねェなァ」
可笑しく言うドフラミンゴはとても楽しそうに見えた。
彼も彼でこんな顔をするのだとドフラミンゴの顔を少しだけちら見。
そしてからモネが居る先頭へ目を向けると鳥のたくさん居る場所へ着く。
モネが言うには、彼女はここの担当飼育係らしい。
普段はドフラミンゴの秘書で、秘書が優先されているが、休みやドフラミンゴがモネを必要ないという、突然の休みが出来た時に来ると説明された。
彼女は愛おしそうに鳥達を見ている。
結構な数だと上を見上げているとドフラミンゴが「これから面白ェもんが見られるぞ」と笑う。
それに、鳥のブースに注目。
モネが笛を取り出して吹くと鳥達が一斉に羽ばたく。
ただ羽ばたいただけではなかった。
何かに導かれるように回りだしたり、優雅に螺旋(らせん)の如く踊り出す。
サーカスの動物達にも引けを取らない見事な芸だった。
やがてモネが笛を最後に鳴らせば鳥達はそれぞれ木に止まって、ただの動物園の観賞の一部となった。
最後まで見終わると拍手をする。
ドフラミンゴとローは見慣れているのかぼーっと見ているだけだった。
拍手しているのは一人だけだったがモネは美しく一礼して満足そうに笑う。
「今日見せたかったのはこれよ。楽しんでいただけたかしら」
「ええ。とっても素晴らしかったです!鳥を操れるなんて本当に凄いですね。これは人気になるってわけですね」
こんな事が出来る動物園がこの世にあるだろうか。
感想を口にするとモネは悪戯な笑みで「これは動物園の見せ物としてやっていないわ」と衝撃的な事を口にした。
しないのかと尋ねると首を横に振ってモネは動物園の鳥達の飼育員らしい事を言い出す。
「鳥達は自由だからこそ美しいわ。世話をしていると、この鳥達を檻から出してしまいそうになる時があるのよ?」
「フッフッフ!おいおい、オーナーの目の前で言う事じゃねェな」
「あら、若様だってフラミンゴを檻から出してやろうかなんて言っていた事があるじゃない」
二人は阿吽の呼吸の様に互いの事を折り合いに出して会話を楽しんでいた。
それを聞き慣れたローが「腹減った」と言ったので四人は動物園内のフードコートへ行った。
世の中には動物園にフードコートがある場所は幾つあるだろうか。
滅多にないだろう。
しかも、此処のフードコートはとても美味しかった。
ここなら毎日来ても楽しいだろうと咀嚼しながらジュースを飲んだ。
因みに動物園の入場料と同じくフードコートの時もタダだった。
「ヘビ。おお、ツルツル……」
食べ終わった後はヘビやうさぎのおさわりコーナーへと向かって、只今ヘビを触っている。
ヘビも全く大丈夫だからとガッツリ触らせてもらっていればローが「あんまり手を出しすぎるな」と焦っている。
モネが毒は抜いてあるから平気よ、と会話しているのが後ろに聞こえた。
ドフラミンゴはドフラミンゴで何につぼったのか高笑いしていたのでローが笑うな、と怒っている。
「嬢ちゃん、あんた最高だ!文句無しの女だ!」
「うふふ……そんなに躊躇無く触る子なんて初めて見たわ」
モネがとても楽しそうな声音でそう言っているのを聞いていたローは頭を抱えて「早く帰りてェ」と呟いていた。
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