ガラスの靴は脱いだのよ | ナノ
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ローとプールの話を終えて早三日。
今リーシャは机に向かっていた。
夏最大の敵、宿題である。

「トラファルガーくん、私やっぱり終わらなかった」

『まァ………そんな予感はしてた』

二日前から始まったローとの電話で事の末路を報告する。
酸っぱい顔をして精一杯頑張ったのだが、と言うと彼は暫し無言の後(のち)。

『勉強会でもするか』

「え?でもトラファルガーくんもう終わってるでしょ?」

『いくらおれでも………かなり終わってるけどな』

「ほら。だったら……悪いよそんな」

やっぱり思っていた通りだった。
ローはそれでも結局リーシャの勉強が終わらないなら意味はないし、夏休み最終日に泣く羽目になると言うので、その未来を想像して言葉に詰まる。

『………決まりだ』

「よ、宜しくお願いします」

と言う訳で次の日にロー宅へお邪魔する事になった。
いつもより派手じゃない光景に首を傾げる事となったが。
そう、何故かズラリと並んでいたメイドが居ない。
出てきたのはメイドではなく初見の人だった。
サングラスをしている。
でもドフラミンゴではない。
彼は竹の棒を持って立っている。
リーシャが玄関に入ると待ち構えていた。

「ドフィから聞いている。ローの部屋まで送ろう」

「へ………そんな………トラファルガーくんの部屋は何処か分かってるんでそこまでしていただかなくても」

言うが歩みを止めないので此処は付いていく事にした。
それにしても何故か武装している様に見える。

「あ、私メイス・リーシャと言います」

「俺はヴェルゴ。ドフィの用心棒をしている」

(用心棒)

確かにドフラミンゴは世界規模で有名な人だからそういった存在が居ても可笑しくはないだろう。
初めて知った事実を噛み砕きながら部屋に案内される。
しかし、ローは居なかった。

「あの」

「ローなら直ぐに来る」

聞きたい事を先に聞かれて、彼は直ぐに部屋を出て行く。
ぽかんと立っていたら程なく廊下から足音が聞こえて息を弾ませたローが入ってくる。

「はァはァ………悪い、足止めされてた」

「ううん。別に待ってないから」

「いや、そうじゃなくて。ヴェルゴが此処に連れてきたんだろ」

「うん」

「何か聞かれなかったか」

真面目な顔で聞いてくるローに何も、と答えると深く息を吐いて座り込む彼に一体どうしたのだろうと疑問が生まれる。
すると、ローはリーシャの聞きたい事が分かった様で悔しげに説明した。
ローが足止めを喰らったのはヴェルゴとリーシャを会わせる為。
会った理由は実際に会ってどんな人間か確かめてみるという事たった。
ローは複雑な眼で「気分悪ィだろ。次から違う場所で落ち合う事にする」と述べるので笑う。

「特に気にしてないよ?」

「だが………はァ、お前が言うなら無理に言わないけどな」

察したローは気を取り直して勉強会を始めてくれた。
ローもやっていない宿題を開き、カリカリとシャープペンが走る音が静寂の部屋でよく聞こえる。
余計な事を考えてしまう程。
ローは世話好きなのだろうかとふと思う。
ただステータス欲しさに告白して(今世)別れて欲しいと頼んだ(前世の記憶が戻った後)のに、リーシャの勉強を付き合ってくれているのだ。
染々(しみじみ)と思っていると、そういえばと違う事を思い出す。

「トラファルガーくん」

「なんだ」

ノートから眼を離さずに答える彼へ質問を投げつける。

「夏休み前に告白してきた子の中から次の彼女はもう決まった?」

「………!」

ローは飛び跳ねるように顔を上げてこちらを見る。
眼を見開いてから言いにくそうに眼を彷徨(うろつ)かせた。
どうしたのだろう、様子が変だ。

「………もう止めようと決めた」

「何を?」

「彼女を作るのは止める事にした」

その宣言に眼を丸くするのは仕方がない。
なんせ、入学式から一定の彼女を作らずクルクルと隣に居る女の子を変えて来たローだ。
パチクリとまばたきを一つ。

「えーと、おめでとう?」

「祝う程の事か?」

「分かんない………あ、じゃあ私はもうお役ごめんって事かな」

「…………期間が………まだ終わってねェ………だろ」

「そっか。じゃあ私とのお付き合い期間が終わったら、私が最後って事になるね」

ローの恋愛出来ない事情はどうあれ、爛れた交際の連鎖が止まるのは喜ぶべき事だ。
爛れているのか不明だが、あまり喜ばしい学生生活ではなさそうだ、と言うリーシャの考えである。

「でも、どうして止めようと思ったの?」

ローが考えを改めた理由が知りたくて尋ねると、彼はグッと肩に力が入ったように身を堅くする。
そんなに変な事を聞いてしまったのだろうか。

「お前が」

「私?」

「本気の恋をしたいって言っただろ。それでおれもこのままじゃキリがねェと思った」

どうやらローはリーシャの言葉に動かされたらしい。
やるな私、と自分を自分で褒める。
そういう風に言われるとなかなか良い気分だ。
ローはまだ言う事があるらしく続ける。

「それに………ずっと探していたものを見つけられそうな………掴めそうな気がする」

「探しもの?良かったね」

何かの比喩に聞こえる。
取り敢えず同調しておく事にした。

「ああ」

ローはこちらを真っ直ぐ見て嬉しそうに眼を細めた。


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