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もし、ハートの海賊団を束ねるローが風邪を引いたら――。
考えたくない。
そのせいで誰かが命を落とす事も考えられる。
「リーシャ!」
「わっ……どうしよう……!」
とりあえず、ベポの部屋に一時匿ってもらおうと決めた。
ローの声が通り過ぎる前に曲がり角に隠れる。
足音が去っていったことを確かめると、リーシャは急いで白くまであるベポの部屋へと駆け込んだ。
「ベっ、ベポちゃんっ!」
トントンと心なしか強めに叩けば開いた扉から目を丸くしたベポが出迎える。
「どうしたの?」という質問にとりあえず今は匿って欲しいと頼めば、心よく了承してくれた。
「ありがとう、ベポちゃんっ。凄く助かった……」
「そう?ならよかった。一体何を慌ててたの?」
「じ、実は……」
ベポにだけは伝えても良いかと考え、ぽつりぽつりと口を開くリーシャ。
「熱が少しあるんだけど……そのね、私、誰にも移したくなくて……」
「え!駄目だよリーシャ。悪化したら辛いよ!」
外科医兼船長を務める人間と共にいる為か、ベポの指摘は敏感だった。
しかし、これでは何の為にこの部屋へと逃げ込んだのか。
意味が無くなると感じたリーシャは慌てて弁解する。
「ま、待ってベポちゃん!私、トラファルガーさんには絶対移したくないのっ。お願い、あの人には絶対言わないで」
リーシャの必死さにベポは唸る。
「うーん……でも、キャプテンはヤワじゃないから大丈夫だと思う」
さりげなく失礼な発言にリーシャは気がつかないまま首を左右に振る。
「お願いっ。匿っ……」
「おい」
「っ……!?」
突如、肩を掴まれたリーシャ。
ビクリと反応しながら後ろを向く。
「ト、トラファ――!」
「来い」
有無を言わさぬローの声にリーシャは口をつぐんだ。
怒っているのか、わからない声。
リーシャは見えない恐怖にされるがまま、ローに手を引かれた。
廊下を歩く足音がよく響く。
「あの、トラファルガーさん……」
「俺のせいだ」
「え?」
リーシャが何か言おうとすると、ローが先に言った。
何の事か、わからずに疑問を浮かべる。
「お前の風邪を言わせなくしたのは、俺のせいだ」
「……あっ」
リーシャは、その言葉にハッとした。
自分は知らないうちに、ローに罪悪感を与えてしまっていたのだと。
(私、自分勝手……だ)
自分に呆れてしまう。
移さないように、移さないようにと思った事が逆に心配させる原因になったのだ。
浅はかな考えだった。
(あ、謝らなくちゃ)
うっと涙目になるのを堪え、ローの目を見る。
「ト、トラファルガーさん、すい、すいません……でした……私、私、貴方に移したくなかっただけなんですっ」
ほろほろと涙の雫が頬を伝う。
自分はここまで涙もろかっただろうか?
「っ……泣くな」
ローは切なげにリーシャの涙を指で拭った。
風邪を引いただけで、悲しくなる。
弱い自分に嫌になった。
強くなりたいのに。
「今、薬を持ってきてやる。寝てろ」
「はい……」
素直に頷くリーシャにローはフッと自信に満ちた表情とは違う優しげな笑みを浮かべ、彼女の涙の跡にそっと口づけを落とした。
悲しまないで、涙を流すのは嬉しい時だけにしておくれ
Title/惑星
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