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溶けてしまえば こぼれるだけ


それは、ほんの些細な咳から始まった。



(ちょっと疲れてるかも……)



ぽやぽやと軽く熱を感じた。
やはり、風邪ではないだろうか。
リーシャは船の廊下を歩きながら思っていた。
最近は、やたらに動いた記憶がある。
ローが起きる前に済ませなければならない入浴にも体力を消耗し。
ローから逃げる為にペンギンの部屋に疾走した。
思えば思う程、自分は船長という存在に振り回されている。
責めるわけではないが、少し休ませてほしい。
リーシャは深い溜め息をつく。
ローが嫌だとか、不快感ではない。
ただ、彼と居ると胸の休まりがないのだ。
口説かれたり、迫られたり。
休息させてもらいたい。
熱ではない頬の体温にカカッと更に赤くなる。



「どうした。頬が赤いぞ」


「!!――トラファルガーさん!」



噂をすれば。
ローが目の前に立っていた。
体格さがある為か、覗き込むように上から顔を見られる。



「な、なんでもないですっ」



恥ずかしくて、先程まで考えていた思考に首を振る。



「そうか?熱はないか……」



と、リーシャの額にローの手が迫る。
リーシャは、なんとなしに身体をのけ反らせた。
そんな反応に彼は怪訝に眉を寄せる。



「本当にどうした。様子がおかしいぞ」



指摘されて反応に困る。
知られたくない。
風邪も思考も何もかも。
リーシャは必死に考えを張り巡らし、ニコリと慣れない笑みを浮かべる。



(頬、引き攣ってる)



ピクリとする顔に内心ハラハラする。
いつもと違うリーシャの表情に何かを感じ取ったローは、ますます疑惑の目を強めてきた。



「やっぱり熱があるかもしれねェ。ちょっと医務室に来い」

「え……!」



少しごまかすつもりが、段々と大事になりつつある事にリーシャは冷や汗をかく。
ローの手がリーシャの腕に触れる直前、リーシャは反射的に回れ右をした。



「!?……おいっ」

「ご、ごめんなさい!」



驚きながらも追って来ようとするローにダッと逃げる。
バタバタと足を動かし、必死に隠れる場所を探した。



(トラファルガーさんは船長なのに、風邪が移ったら……)



航海という危険を伴う世界。
それは、どんな事が起こるかわからないということ。


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