「な、なにっ!」
女性の小さな悲鳴もした。
それだけで、リーシャは悲しくなる。
人ではなく羊という普通でない姿。
現実と実感に心が沈む。
「っ、船長さん、どこ行くの!?」
「……!」
ローの隣にいた女性を見ると、ローが立ち上がるのが見えた。
その表情は無表情で、何か悪い事をしてしまったような気持ちになりリーシャは下を向く。
その間にも彼は靴音を響かせて、やってくる。
音が目の前まで聞こえ、止まった。
ずっと顔を上げられなくて、辛い。
逃げ出したくなる衝動にクッと身体を旋回させる。
その瞬間――。
「待て」
まるで呪文のように身体が止まる。
とても嫌で、見られたくない。
どうしようもなく、涙がこぼれた。
こんなつもりなんてなかったのに。
リーシャは変身した自分の手を見る。
(動物の、ひづめ……)
紛れも無いそれは羊。
茶色くて堅い。
トンと足を地面に付ければカチリと音がした。
「俺も外に行く」
呼び止められ、何を言われるかと思えば。
リーシャはハッと息を呑んで顔を上げた。
「ほら、行くぞ」
まるで人間相手に話し掛けるロー。
リーシャは、また泣いた。
胸に溢れた灯は、ゆらりゆらりと揺れ動く
Title/空をとぶ5つの方法
[ back ] bkm