究極の取捨選択
朝なのか、目にうっすらと日の光が入ってきた。
「う……ん」
抱きしめられている感覚にまたトラファルガーさんがベッドに忍び込んだことをまだ覚醒しきれていない脳が理解する。
もう何度目になろうトラファルガーさんの行動に少しずつ慣れてきている自分にどうしようもないため息を内心ついた。
「とりゃふぁる――!?」
トラファルガーさんを起こす為に手を動かした時に出た自分の舌っ足らずの声に私は固まる。
よくよく手も見てみれば、小さくなっていることに気がつく。
「リーシャ……?起きたのか?」
ゆっくりと目を開けるトラファルガーさんはまだ今の私のこの状況に気がついていない。
「あ、あ、あ……!」
もうパニックを起こして何を言えばいいのかわからなくなった。
「……どうし――」
やっと視界がクリアになったのかトラファルガーさんが私を見下ろした瞬間、目を見開いたまま動かなくなった。
「お前、リーシャ……か?」
「わたしな、んですか、ね?」
自分でも何がどうなっているのか全く理解できていない。
「とりあえず落ち着け」
「うっうっ……」
泣くつもりはなかったのに何故か目から涙が出てくる。
「泣くな、大丈夫だ」
「と、とりゃふぁるがぁさん……」
トラファルガーさんの手が私の涙の雫を掬い取る。
「ペンギン達の所へ行くぞ。ほら、掴まれ」
「はい……」
トラファルガーさんが両腕を出すと私はそこへ行き抱き上げられた。
「フフ、素直じゃねェか」
「わたしにもなにがなんだか……?」
もしかして思考まで子供になってしまったのかもしれないと私は歩き出したトラファルガーさんを見ながら思った。
***
「おいペンギン」
「なんですか船長……!?」
振り向いたペンギンがリーシャを視界に捕らえた瞬間凝視してきた。
「まさか、船長……彼女と……!」
「お前は何を想像したんだ。こいつはリーシャだ」
まるでいつもと立場が逆の光景に本当にこの子供がリーシャと俺の子供だったらいいのに、と考えた。
「リーシャ?その子供がですか」
「あァ、お前にも言っておいたほうがいいと思ってな」
俺がそう説明すればペンギンは「そうですか」と呟き後ろにあった机から何やら取り出した。
「飴、食べるか?」
「食べます!」
飴をちらつかせたら見事に食いついたリーシャは目をキラキラとさせながらペンギンに手を伸ばした。
「お前が子供好きとはな」
「船長こそ人のこと言えませんよ」
「これはリーシャだからだ」
俺はムッとしながら、なんだか悔しくなりリーシャを抱える。
「むごむご……」
もごもごと飴を口に入れ一生懸命に口を動かす小さな彼女に俺は頭を撫でながら次の場所へと向かった。
***
「あれ?船長、その子供どうしたんですか?……まさか隠し子――ぐはァ!?」
途中に出くわしてしまったシャチに気づかないフリをして、踏み付けるとまま素通りした。
「キャプテーン!」
この元気が有り余っているような声はベポだな。
「あれぇ?その子もしかしてリーシャ?」
「わかるのか」
「だって匂いがリーシャだもん!」
さすがというべきか。
俺は抱っこさせて、とせがむベポに今だ飴を舐めているリーシャを渡した。
「ちっちゃ〜い!」
「わぁ!ふかふかぁ〜!」
徐々に知能が幼くなっているのは気のせいではないようで、最初に会話できたリーシャはもうベポをベポと認識できないままふかふかな毛布だと思い込みそのまま寝入ってしまった。
「リーシャ元に戻るかな?キャプテン」
「戻らなくても絶対に戻す」
「だよね!」
すやすやと寝息を立てている彼女をゆっくりこちらへと抱き直せば擦り寄ってくるマシュマロのような頬。
「やっぱり考え直す」
「え!?」
俺の発言の数秒後にペンギンの膝蹴りが落とされるのはリーシャの知らぬ出来事。
たまにはこんなハプニングも悪くない
(あれ?私いつの間に寝て……ペンギンさん!)
(あぁ、起きたか)
(どどどうしてペンギンさんが私を抱きしめて……!?)
(覚えてないのか……)
Title/空をとぶ5つの方法
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