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「んでな……」
「ひいいい!」
「まだ始まってねェよ」
苦笑いするシャチ。
実は先刻、船員達が暇だからと言って怖い話大会をしようと提案があったのだ。
そこにたまたまいたローから逃げていたリーシャがいた事によりいつの間にか参加決定になっていた。
またまたそこへリーシャを追っていたローも彼女が参加するなら、と一緒に怖い話大会に居座っているのだ。
もちろん、リーシャは怖い話など苦手である。
しかし、ローは考えた。
もし彼女が怖がり泣き叫んだら必然的に自分へ抱き着いてくるのではないか、と――。
「や、やっぱり辞退します〜!!」
リーシャには無理だ。
ローが怖くないと言うから渋々頷いたのに。
リーシャは立ち上がろうと手を付く。
「まァ待て」
「あう!」
しかしいつの間にかリーシャの腰に手を置いていたローによりそれは叶わない。
「船長手回し早いですね……」
他のクルーが冷めた目でローを見る中、楽しそうに口元を上げる男。
「フフ……これからじゃねェか」
と言ってリーシャを座らせる手際のよさにシャチ達は怖い話を続ける。
「その女はな……」
「うぅ……」
リーシャは耳を塞ぎながら目をつぶることにした。
「……意味ないな」
リーシャの耳には、ローの言った言葉は一切入ってこなかった。
そしてやっと大会から解放されてからの夜。
リーシャはトイレへ向かう為にギシギシと軋む廊下を歩きながらあまり聞いていなかった昼間の話しを思い出してしまった。
「ど、どうしよう……」
トイレにはなんとか行けたのだが、その帰りに行きの倍程怖さが増した。
幸か不幸かローの部屋が通りにあったので、仕方なく、仕方なく……扉を叩いた。
(幽霊の方が怖いし……)
誰が見てもトラファルガー・ローより幽霊を取った方がマシだと絶対リーシャに言っていたであろう。
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