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するとベッドへ座っているリーシャの隣に一人分の重みが加わる。
「……こっちを見ろ」
「――あっ……」
ローがリーシャの顎を掴み上に向かせる。
そうなると必然的に二人の瞳がぶつかり合う。
「……お前が」
ローが真剣な目でリーシャを見据える。
「お前が能力者でも――俺のお前に対する気持ちは変わらねェ」
「っ……」
リーシャは息を呑む。
ローの言葉に偽りなどないのは、リーシャにもわかった。
「ト、トラファルガーさん……」
「前にも言ったが、ローだ」
「……やっぱり私には――あっ」
名前は呼べない、と言おうとしたリーシャの唇をローは塞いだ。
しかしこの前のような深いキスではなく、軽い口づけ。
「やっ……」
女の力では敵うわけがないが、ローはあっさりと身を引いた。
「わ、私は海兵、なんです……よ?」
リーシャは簡単に引き下がったローに驚きながら言葉を紡ぐ。
そう、リーシャとローは元々職業が正反対などころか、住む世界が違いすぎる。
それをわかっていてなお、ローはいつもの不適な笑みを浮かべた。
「そんなの、無法者の海賊にとっちゃ――関係ねェよ」
「………!」
ローの言葉にリーシャは口をあんぐりと開ける。
そうだった。彼は海賊だ。そう言われてしまっては、もう帰す言葉はなくなってしまう。
そんなリーシャにローはくつくつと笑い、もう一度彼女に口づけを掠め取るように合わせた。
「ち、ちょっと待ってくだ……!」
最近よく唇を奪われていると思い、リーシャはローの顔を押し退けながら、打開策を練らなくてはと密かに考え初めたのだった。
(彼女は自分の不安がなくなっていることに気づいていなかった)
(彼はそんな彼女を愛おしそうに見ていた)
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