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「船長……あの羊は……」
「……リーシャだ」
「……!!!」
ローの言葉に船内は騒然とする。
「え、リーシャが能力?」
「まじかよ。見た目じゃわからねェものだな」
口々に驚きの声を上げる。
「だが――」
ローの声にピタリと静まった船員達。
「あいつは最近能力を身につけたばかりでコントロールができないと言っている。それに攫ってきた俺達がどうこう言える立場じゃねェ」
船員達はその言葉に確かに、と頷くしかない。
本人が意図して乗船したわけではないので、騙すつもりもなかったことくらい、リーシャの人柄を知っているローや船員達はよくわかっている。
リーシャはただ怖くて能力が発動してしまったのだと誰でも容易に考えられた。
「だからリーシャを能力者として特別扱いしたりすんじゃねェぞ。わかったか」
「「「もちろんです!!」」」
リーシャを能力者として特別扱いなどするはずがないと船員達は笑顔でローの言葉に頷いた。
リーシャはリーシャ。
能力者だとしても本質など変わりはしないのだ。
そのことを十分理解しているロー達は、リーシャが元気になるようにと模索を始めた。
***
「……嫌だな」
リーシャは泣いてからローに背中をさすられ、落ち着くまで一緒にいたが、数分前にローは船員達の所へ行ってしまった。
そして、リーシャは落ち着いたからこそ今度は不安が込み上げてきた。
能力者だと知られてしまった今、いつなにをされるのか想像などできない。
しかし、受け入れられるわけがないと自分の体を抱きしめる。
悪魔の実。
呪われた自分。
もはや普通、日常という言葉は当て嵌まらない。
人間というのかさえわからなくなる。
(気味が悪いよね……)
悪魔の実を食べた人間は大抵の人達には忌み嫌われる存在だと聞いたことがある。
今までは自分が悪魔の実を食べた事実を忘れていたリーシャはそれ程重要だと感じなかった。
(私って忘れっぽいなぁ……)
しかし、もっと警戒をしておけばよかったと後悔する。
「――入っていいか?」
「!……はい……」
声の主はローだった。
どこか気遣うような声色にリーシャは泣きそうになる。
「座ってもいいか?」
「………」
リーシャは黙って頷いた。
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