22
人は忙しかったり、何か大変なことがあったりすると重大なことを忘れてしまうことがある。
「え?敵船ですか?」
「あァ。もうじきやってくる」
温泉の島から出航してから三日が経過し、とりわけ何も起こらず、平和な日々を送っていた。
ローとの二回にわたる恥ずかしいキスは思い出さないように努めているリーシャ。
そんなハートの海賊団に今しがた、敵船が近づいているという。
ではなぜ船員達はこんな時に落ち着き払っているのかとリーシャは思った。ペンギンに呼び止められ、そんなことを言われリーシャは混乱する。
(本当にやってくるのかな?)
そんな時だった――。
――ボォン!
――ドカーン!
「攻撃してきたな」
「ななな!」
冷静なペンギンに信じられずリーシャは頭を抱える。
「リーシャ。俺の部屋に隠れていろ」
「トトト!トラファルガーさぁん!!」
そこへやってきたのは、これまた何くわぬ顔で登場したロー。
「船長。だから神出鬼没すぎます」
(そんなことを言ってる場合じゃないよ〜!)
砲撃を受けたというのに。
リーシャが二人を見ているとローがリーシャを抱き上げた。
「きゃっ!」
「隠れてろ」
スタスタと歩くローにリーシャは理解する前にローの自室のシャワールームへと降ろされる。
「あ、あの――」
何がなんだかわからないリーシャにローは頭を撫でる。
「誘拐してきた以上、お前を守る。それを覚悟して決めたのは俺だ」
「トラファルガーさん……」
その言葉にリーシャの胸がギュッと締め付けられる。
「ロー、だ」
いつものように自分の名前を呼ばせようとするロー。
「そんな、呼び捨てなんてっ……」
一線を越えない為でもあるため、名を呼べないリーシャ。
「……まァ、いずれ呼ばせてやるさ」
そんなリーシャにローはいつものようにニヤリと自信に満ちた笑みを見せる。
「行ってくる。帰ったらキスでもしてくれよ」
「えっ!」
驚くリーシャを置いて行ってしまったロー。
(キキキ!)
この間の事を思い出し、頬を染めるリーシャは違うことを考えようと頭を動かした。
「海賊……」
当たり前だ。
海賊船に乗っているのだから。
リーシャは改めて自分は裏側の領域に入っていることを感じた。
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