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ローは微かに口元を緩め、ペンギンとリーシャの練習中の想像をし喉の奥で笑う。
「そりゃ大変だったなァ」
「ふえ……大変でした」
疲れたのかうとうととし始めたリーシャ。
「フフ……あっちで寝てこい」
「は、い……」
返事はするものの睡魔には勝てなかったリーシャはスッと瞼を降ろしてしまった。
「はァ……無防備だな」
自分というオオカミがいるというのに。
ローはリーシャに近寄りそっと体を抱き上げる。
「なんて思ってても手が出せねェがな」
微苦笑を浮かべ、ゆっくりと寝床へ連れていく。
リーシャを敷布団に寝かせると、ローも眠りに就いた。
***
「……ん」
慣れかけている体の重みにリーシャはバッと起きる。
「まっ、また……!」
やはり目の前にローの顔があり、カチリと体が強張った。
毎回こんなことをされていたら心臓がもたない。
ドキドキとするリーシャは慌てて首を左右に振る。
(わ、私は海兵なんだから……)
そこでリーシャはいつも自分とローでは、立場もすべてが違い過ぎるのだと無意識に自己嫌悪してしまう。
けしてローが大嫌いだとは思わない。
しかし、海兵と海賊など限界がいつかくるに決まっている。
ローだってわかっているはずだ。
なのにリーシャを誘拐して近くに置くなんて、余程の物好きなのだろう。
リーシャは自分のことに関することは、ある種のコンプレックスのようなものを抱いている。
自分は何もできない。
弱くて役立たずな人間だと思い込んでしまう。
どんなに頑張っても上手くいかないと、諦める。
だから自分を好きだと言うローを受け入れることができない。
「どうした」
「!?……起きていたんですか?」
頭上からテノールの声が聞こえリーシャがバッと上を向くと、しっかり目が開いているローがいた。
「今起きた。考え事か?」
優しい声色で聞いてるローにリーシャは戸惑いながら頷く。
そんなリーシャをローはゆっくりとした動作で抱きしめた。
「え!?――ト、トラファルガーさんっ!?」
いきなりの事に驚き慌てるリーシャ。
「何も考えなくていい」
その言葉は以前ローに言われたことがあった。
意味がわからず、リーシャはローを見る。
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