09
「船長……」
「なんだ」
「その顔どうしたんですか」
「これか?フフ、これは愛のムチだ」
「彼女に叩かれたんですね」
「こんなの痛くも痒くもねェよ」
「………」
ペンギンは、この人はもう何を言っても無駄だと感じた。
(恋は盲目と言うが……)
盲目を越えて痛みも恋に入ってしまうんだな。
船長がいうには、どうやら昨日の夜になぜかネグリジェを着たリーシャが部屋に来て、普通の服を貸して、理性が切れそうだったようで彼女にキスをしようとしたところ、そこで船長の頬目掛けてリーシャの愛のビンタを受けたらしい。
というか、説明が長い。
省いていい部分まで細かく述べている船長。
こんなに楽しげに笑う船長を俺は見たことがない。リーシャには申し訳ないが、正直彼女がいるおかげだ。
「あっ、船長ー!」
「どうした」
シャチが船長を見つけるなり、小走りで、なぜかうきうきとした表情をしながらこちらへやってきた。
「昨日の夜、どうでしたか!?」
「昨日の夜?」
俺は眉を寄せてシャチを見る。
「リーシャですよ!リーシャ!」
「シャチ、あれはお前だったのか」
「何かしたのか、リーシャに」
ペンギンは素早く感じ取り、ジロリとシャチを睨みつけた。
「んげっ!……ペ、ペンギン……」
「答えろ。リーシャに何をした」
日々、リーシャのおめつけ役であるペンギンはこの船で一番リーシャに対して過保護だと言えるだろう。ローは愛情の過保護であり。ペンギンは親心に近い、妹のように思っている。
「ええ、えっと、ネ、ネグリジェを……いだっ!」
リーシャにネグリジェを着させたことや、ローの頬にあるリーシャのビンタの繋がりをすぐに理解したペンギンはシャチに渾身の鉄拳を食らわせた。
「全く……俺が目を離している内に」
「いや、お前はよくやったぞ、シャチ」
文句を漏らしているとローがペンギンという火に油を注いできた。
「いい加減にしろっ!」
(地震、雷、火事、ペンギン)
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