08
ローとリーシャが『デート』かもしれなかったことをして早数日。
すでに海賊船は水上に進出していた。
「なァなァリーシャ」
「なんですかシャチさん」
「頼むからさァ、あれどうにかしてくれよ〜」
シャチが指を差した先。
「ちょっと無理ですね」
「大丈夫だ!お前なら許されるぜっ!」
(無理無理無理無理っ!)
リーシャは焦りながら首を横にブンブンと振る。
なぜ二人はこんな会話をしているのか。
それはこの前の『デート未遂事件』(シャチが名付けた)で全くデートをできなかったことを根に持っているローが目を細めながら不機嫌&殺気オーラを放ちながら、朝ご飯を食べる場所である食堂の椅子(しかもちゃっかりリーシャの隣)に座っているからである。
「次こそは絶対……」
ローがなにやらぶつぶつと言い始める。
「次もデートする気なんだな船長」
「わ、私は何も聞こえない私は何も聞こえない……!」
シャチの言葉にリーシャは耳を塞ぐ。
「あ、俺良いこと考えた」
「何がですか?」
「んー、まァお楽しみということで」
リーシャはニヤニヤと笑うシャチに疑問を感じながら夕食を食べた。
***
――シャー……
――キュッ
お風呂から上がったリーシャはバスタオルを巻いてペタペタと脱衣所へ向かう。
船に乗船した当時はお風呂をどうしようかと悩んだリーシャ。
なんせこの船は女性など一人もいない男所帯。
不安に駆られていたリーシャに救いの手を差し延べたのはベポだった。
リーシャがお風呂へ入っている間はベポが脱衣所の外側の扉の前で見張りをしていてくれている。
特に入ってきそうだったローも、そんな気配は塵も見せない。
なので安心してゆっくりと浸かれるのだ。
「いいお湯だったな」
体が温まった状態で用意していたパジャマに着替えようと手を伸ばす。
「――あれ?」
なんだか変だ。
リーシャは明らかに変わっている服を広げてみた。
「なっ、え!なにこれっ!」
「どうかしたの?リーシャ」
ベポが不思議そうな声色で尋ねてきて、慌てて大丈夫だよ、と返事をした。
そう?と納得したベポに安堵しながらリーシャはもう一度その服を見る。
「こ、これってやっぱり……」
***
――コンコン
俺がベッドに座りながら本を読んでいるとふいに扉を叩く音がした。
「誰だ」
「わ、私です……トラファルガー、さん……」
たとたどしく聞こえた声はリーシャだった。
(リーシャ?)
「入れ」
俺は動揺しながら、でも顔には出さずに言った。
「し、失礼します……」
「どうし――!!」
俺は言葉を失った。
俺の目には、彼女の背中に純白な羽が見えた。
例えるなら――。
「あ、あの、トラファルガーさん?」
思考が違う世界へ行っていた俺はリーシャの声にハッと我に返る。
「あァ……それよりどうかしたか?」
「じ、実はお風呂から上がると置いていたはずの服がなくて……ネ、ネグリジェしかなかったので、そ、その……何か服を貸してもらえますか?は、恥ずかしくてっ……」
「っ……」
リーシャの潤んだ瞳に俺はプラス、ネグリジェという姿にくらりとした。
(我慢しろ俺……!)
奮闘している俺に更なる試練が待ち構えていた。
「えと、駄目ですか?」
コテっと首を傾げ、はかなげに俺を見つめるリーシャ。
「わかった……今出してやる」
俺は理性と勝負しながらクローゼットを漁る。
「これを着ろ」
「あ、はい!ありがとうございます」
嬉しそうに俺の服を受け取る彼女に、
「どういたしまして。なァ――」
「はい?」
――トン
「?!」
どうやら理性の限界が近づいてしまった。
「男の部屋にそんな無防備な格好でくるんじゃねェ」
「あ、あぅ……や、ど、どいてくださいっ」
リーシャの顔の両脇に手を置いて逃げ道をなくす。
ニヤリと笑いながらリーシャが焦っている様子を眺める。
「フフッ……初々しいな」
「か、からかわないでください……」
「からかってねェ。お前は可愛いと言っているだけだ」
「うぅ、か、可愛くなんて、ないですっ……!」
俺に一生懸命抗議をする姿に思わず口元が緩む。
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