05
そんなローにリーシャはなおも唸っている。
「わかった。まだ自腹で買いたいんだったら。――俺にキスしろ」
「……え」
ローの発言を飲み込めていないのか、二人しかいない部屋にリーシャの声がよく響いた。
「ほら。自腹で、買いたいんだろ」
自腹の部分を強調しながらローはリーシャに近づく。
「え、ちょっ、ト、トラファルガーさん!」
リーシャは必死に後ろへ下がる。
しかしすぐに背が壁に当たり、もう逃げ場がない。
「どうした?」
わかりきっているはずのローは楽しげにリーシャの頭上に手をつき、顔を近づける。
「はぅ……、わわ、わかりましたっ!」
耐え切れなくなったリーシャがついに折れた。
鼻先がくっつきそうな、ギリギリセーフな距離だ。
「クク……、やっぱりお前は最高だな」
ローはそう言うと一瞬、リーシャの隙をついて唇を掠めとるように口づけた。
「は……え?」
リーシャはいきなりのことに目をぱちくりとさせる。
「フフ……、行くぞ」
そんな状態のリーシャの手をギュッと握り、自然な動作で手を引く。
まだ放心状態の少女を見てローはますます手放せないと実感をしたのだった。
一つだけいいですか?
な に が 起 こ っ た の ?
今のリーシャの頭の中はまさに、ぐちゃぐちゃだった。
先程、ローに服は自分のお金で買うといい、でも別にいらないと言われ、追い詰められ、顔を近けて……、キスをされた。
んだよね?
(キス……キスキスキスキ……!!)
キスという単語がリーシャの頭の中をエンドレスに周り回って今度は理解をし始める。
「あ、あの、トラファルガーさん」
「ローだと言ってるだろ。落ち着いたか?」
現在進行形でリーシャの手を握りながら町を歩いているローがニヤニヤと笑っていた。
「わわわ、私、今凄く体が熱いでで、です」
リーシャはもう考えないようにしようと思ったが、次は先程のキスシーンがフラッシュバックのように起こり、体がまるで心臓のようにドクドクと波をうってきたのだ。
「クク……、誘ってんのか?まぁいい。アイス買ってきてやるからここでまってろ」
「え」
(え)
今、なんだがとても空耳が聞こえたような気がした。
口と心がシンクロ率100%で重なってしまった。
「い、今なんて?」
「あ?だから、アイス買ってきてやるからここで待ってろ、と言ったが?」
(……い、意外)
リーシャがそう思ったのと同時に上から喉の奥で笑っている声がした。
「クク……、当ててやろうか。意外だと思ったんだろ?」
「!!」
ローの言葉にリーシャは驚いた表情をする。
「そりゃそうだ。俺だって普段はこんなことしねェからな」
ローはそう言ってリーシャの耳元で囁く。
「だから、俺を使うことができるのはお前だけだ」
「っ〜!」
その言葉とローの吐息にリーシャは顔をこれ以上ないくらいに真っ赤にした。
(気絶しそうになったのは言うまでもない)
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