04
あいつを、誘拐ともいう方法でこの船へ乗せて二週間が経つ。
その時リーシャは戸惑っていたが、前からクルー達とも少しばかり面識があったおかげで、なんとかこの船の環境に慣れてくれたことに俺は密かに安堵していた。
今では、朝にリーシャが俺に抱きしめられていることに気づいて起床し、ペンギンに叫びながら走り去っていくという日常が成り立っていた。
朝起きた時のリーシャの寝顔と寝起きの顔がたまらなくて、ついつい毎日あいつのベッドに忍び込んでしまう。
最近ペンギンに自重しろと言われてはいるが、正直な話し――。
「無理だな」
ローはまだ寝ているリーシャの寝顔を見ながら小さな掠れるような声で一人呟く。
そして、すやすやと無防備に寝息を立てている彼女の頬をスルリと撫でる。
「ん……」
くすぐったかったのが微かに体をよじるリーシャ。
「フフ……」
その行動すら愛おしくて、ローはその小さな体を優しく抱きしめる。
そして、彼女の頭上にキスを落とす。
「骨抜きっつーのは、こういうことか」
自分の言葉と行動に内心苦笑いをしながら、ローは眠りに落ちた。
「いいか。ここは海軍の駐屯所がある。気を引き締めろ」
「「「わかりました!」」」
ローの言葉にクルー達は緊張した面持ちで返事をする。
今、ハートの海賊団の船は島についたばかりだ。
いつものように情報を先に仕入れ、そして上陸する。
島に入れば、他の海賊と同じく酒場に行き、その後は夜の時間になる。
島に着いたのが夕方だった為、今回はぞろぞろとクルー達は酒場を目指すだろう。
「船長、酒場を貸し切りにしときますね」
シャチがローに声をかける。
「あァ。俺は後から遅れていく。先に行きてェ所があるからな」
「へ?珍しいですね……、あ、なるほど」
シャチは合点がいったように言うとじゃあ先に行ってます、と船を降りていった。
「理解力がある奴だな」
ローはすでにいなくなったシャチに笑いながら自室へ向かう――のではなく。
「入るぞ」
「あ、はい。どうぞ」
自室の隣にある、もう一つの扉に向かって声をかける。
普段ならば了解を得ずに人の部屋へ入るローだが、自分が好意を抱いている相手となると無粋な真似はできない。
ドアノブを回し中へ入ると、そこにはローの服を着ているリーシャがいた。
「どうしたんですか?あ、ももも、もしかしてまた寝込みを……!」
「残念だが違う」
「全く残念そうに見えないんですけどっ!!」
身震いしながらローを見るリーシャに笑みが浮かんだ。
(からかいがいがあるな)
自分のサド心を揺らす少女にローは半分冗談に言葉を返す。
毎日のようにベッドに忍び込む為、リーシャにとってはある意味毎回なにかとローを警戒するときがある。
「フフ……、買い物に誘いにきただけだ」
「買い物、ですか?」
「そうだ。そろそろ服を買わねェと、今持っている服を着回すことになるからな」
リーシャはローの言葉に悩ましげな表情を浮かべる。
「それは困るんですけど。私そこまでお金持ってないんですよね……」
ローがリーシャを誘拐した時に多少の服とお金を一緒に持っていったが、町にそのまま住むつもりでいた為、お金には限界があった。
「そんなことは気にしなくていい」
「で、でも……」
誘拐したのはこちらだというのに。
ローは内心ため息をつく。
いくらローでも、リーシャにお金を出させる程、心も狭くはないし、お金も有り余るほどある。
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