糖分追加で
バレンタインデー。
それは感謝の気持ちを中に込めて送る日。
「あ、あのペンギンさん……」
「ん、どうした?」
船員達が集まっている食堂に向かう道中、微かに頬を染めたリーシャに声を掛けられたペンギン。
「これ……よくペンギンさんには助けてもらっているので……」
「……?――これは?」
「感謝チョコです」
彼女の言葉に俺はもうそんな時期か、と感じ今日に限ってそわそわとする船員達の理由がようやくわかった。
「ありがとうリーシャ。後で食べることにする」
「はいっ」
言葉を掛ければ嬉しそうに笑うリーシャ。
「俺にもくれ」
そんな時、最近変態が現れ始めている人間の声が聞こえた。
「あ、はい。トラファルガーさんの分もありますよ」
ちゃっかり自分の分を確保しようとする船長に俺は内心苦笑いをする。
やはりこういう行事には唯一この船にいる女性であるリーシャが関わるとなれば抜かりなく嗅ぎ付ける船長。
クールで頭が切れる有能な人物には間違いないのだが惚れた女となれば普通の男となるのは当たり前なのかもしれない。
「どうぞ」
「もちろん本命だろ?」
「え?……ちちち違いますよっ!?」
「フフ、恥ずかしがるな」
頬を真っ赤にするリーシャをからかう船長に俺はそっとその場を去った。
気配でペンギンが気をきかせたようで去っていくのを感じた。
俺はその時間を余すことなく使わせてもらおうと口元を上げる。
「ククッ……とりあえず楽しもうじゃねェか」
「たたた楽しもうっ!?」
リーシャの腰を抱き寄せると俺からすれば弱々しい力で抜け出そうとする。
「チョコ食べさせてくれないのか?」
「た、食べさせる!?無理です……!」
「それは残念だ」
と言いながら俺はリーシャからのチョコの袋をカサリと開け中のチョコを取り出す。
「上手く出来てるな」
「あ、ありがとうござ、います……」
クッキーの時も思ったが彼女はなかなか料理ができるようだ。
また一つ好きな女のことを知れたことに俺は嬉しくなる。
「じゃあ――」
「!……んぐっ」
彼女の口にチョコを軽く入れる。
「んんん……!」
驚いている間、唇を奪う。
ギュッと目をつぶっている姿に俺はもっと欲しくなる衝動を感じた。
リーシャに舌を入れるのはたやすい。
だが、今回はここまでにしとこうと唇を離す。
「美味かったぜ」
「っ……!」
手の力を緩めれば一目散に駆け出したリーシャ。
その姿を見送った俺はフッと口元を緩めたまま残りのチョコを食べる為に自室へ歩き出した。
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