06
家の玄関先、つまりRPGでいうと始まりの町を出た所でラスボス級に足止めをくらったが、そこは薬草をくれる町人の如くペンギン(偽名を忘れてしまった)が助け船を出してくれた。
「では旦那様と行かれては」
何の解決にもなっちゃいねえ。
と、心の中でどす黒く呟いた。
しかし、反論するのは亭主関白(勝手にそう思っているだけ)に反するので本当は嫌だが、付いてきてもらう事にした。
亭主関白は時々であって臨機応変にその形を変えるのだ。
「旦那様、お仕事は平気ですか?」
「……ああ」
凄く困惑している男に一拍置いて気付く。
そういえば結婚した当初の今世の自分はプリプリと短気で我が儘で人の予定を全く考慮しない悪い方に偏っている癇癪持ちなテンプレ悪役令嬢だった。
すっかり元の言葉遣いや気遣いが出てしまっている。
こうなったら今からでも止めよう。
「そうですか……今から貴方を沢山(たくさん)こき使うんですからそうでなくては迷惑ですわ」
これじゃあツンデレだ。
もうなんか墓穴と後戻り出来ない変人みたいに思われてしまう。
どうしよう、とオロオロとした後ちらりと彼を見上げた。
そしたら震えていた。
ブルブルと震えていた。
まるでルフィに振り回された後ハッとなる時の顔でこちらを凝視している。
その目はまるで「こいつ頭大丈夫か」みたいな感じだ。
別に患っていない。
そして中二で掛かるあの病が世界規模で行われているこの世界の能力者にそんな目で見られるのはとても心外だ(褒め言葉)。
「今のは軽い冗談ですわ。おほほ。あ、旦那様。ランジェリーショップが見えて来ましたわ」
話しを変えようと見えてきた店を指すとまだ何か言いたそうなローだったが、敢えて知らない、気付かないフリをした。
てくてくと歩いて行くと大きな店を見上げてから中へ入店。
待っていると思ったがやはり付いてきた。
夢小説の設定も生きている、成る程成る程。
こういう場合は待っているパターンより一緒に入って行くパターンの方が夢設定には多い。
やはり夢小説を網羅(もうら)しておいて良かった。
いらっしゃいませとお迎えしてくれる人を横目にカゴをもって品物を見る。
「旦那様」
「?……何だ」
こっちへ来る様に手招いて試着室へと押し込む。
何をされるのか分からないと言う顔でこちらを仰ぎ見るので「見られては困ります」と言い添える。
それで合点がいったローは大人しく試着室に入った。
そしてリーシャも入るとカーテンを閉めて品物を一品手に持つ。
「よいしょっと」
「………………何故俺の胸に当てる」
低い声で聞いてきたローに至極当たり前だと眉を寄せた。
「そんなの、言わなくても分かっているでしょうに……あ、この色で宜しくて?ホワイトが殿方には人気なのでしょう?」
「っ、っっっ!」
ガタガタを震えて顔に陰を作るローにリーシャは色男を弄ぶ楽しさを満喫していた。
だから私はMではないの……と心の中で言ったので誰にも伝わらない。
Sなのかと聞かれれば臨機応変に、という回答を己の中に持っている青春真っ只中な思考を持つリーシャであった。
自宅に帰ってきた二人の夫婦(仮)は先ずシャチに出会った。
シャチもといシャンデは帰ってきたローを見てギョッとした。
「せっ……じゃなくて、旦那様!いかがなされたのですか!?」
今彼は自白した(二度目)。
明らかに船長のせ、を口にしかけた。
笑っている暇はなく彼は隈がいつもよりも濃くなった船長に歩み寄る。
そのついでにこれを渡しておこう。
「はい、シャンデ。日頃のお礼よ」
「そんな何事もなかったかのように……いえ、ありがとうございます」
戸惑うシャンデはもごもごと口にする。
使用人と言う立場だからか、心配だと口にしないのはまあスパイとしては次第点だろう。
いや、既に色々しでかしている数々の失敗により無効な気もするが。
ローよ、何故シャチを寄越したのだ(何度でも問いたくなる)。
「て、ピンヒール??」
「ええ。取り敢えずちょっとそこに座ってみて……そして、四つん這いに……そう、それで良いわ」
「あ、あの?え?え?」
四つん這いという従僕スタイルになったシャチ。
戸惑っているがそんな戸惑いなんて捨ててしまえば良いだろう。
「さ、旦那様。靴を……」
と、彼のブーツを脱がす。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!」
顔を青くしたシャチがそのままの姿勢で止めてくる。
「何で旦那様に履かそうとしてるんですか!?」
「何でって……踏んでもらうからに決まっているでしょう?」
「ええええええ!?な、何が起こって……!」
「シャンデ、私はね……貴方が旦那様を見る時……とても熱い眼差しを向けている事に気付いたの……嗚呼……きっと貴方は内なる自分を必死に隠していたのね」
「それが何でピンヒールで踏まれる事に繋がるんですかっ!?」
「貴方は使用人で旦那様は主人……後はもうお約束だからよ」
「それはお約束であって俺は望んでな……いてててて!?」
片足にピンヒールを履かせたのでリーシャはローの足を持ち上げた。
重かったけれど何とか上げられたのでふう、と額の汗を拭う。
「何一仕事終えたみたいな仕草してんのこの子!痛い!旦那様!ちょ、退かして下さいこの足!」
すると、生気がなかったローが今し方気が付いた様子で声の出所を見る。
「何やってる……お前はそんなにピンヒールで踏まれたかったのか?」
「えええ!?嘘だろっ、今まで会話聞いてなかったの!?だから望んでないと言ってるでしょうがああああ!!」
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