05
さてさて、お買い物の時間です。
私服に着替えていざ行かん!
あ、宇宙には飛び出さないのでご心配なく。
RPGで言えば始まりの町を出たばかりら辺だ。
「奥様」
シャンデにエンカウント。
接触確率九十九パーセントだったから覚悟はしていた。
「どちらへ行かれるので?」
聞かれたけれど腹を探る目という技を自動的に発動させたシャンデ。
理由は言えるには言えるけれど、そう言えばこの男はロー側のスパイだと思い出して言うのを止める。
「ちょっと川に洗濯に行くわ」
「付くにしたってもうちょっとマシな嘘吐けません!?」
「じゃあ山へ芝刈りに」
「じゃあって付いてる時点でアウトなんですけど!?」
ガッと勢いよくツッコむシャチにナイスだ、と笑う。
ノリの良さはハート仕込みですね。
「ん?奥様……その格好……凄く、普通ですね」
(やっぱりそこに気付くよねー)
いつもはドレスを来ているのだが(本当はラフな姿で居たい)今は貴族ではなく一般の庶民服と言うものを来ている。
使用人を解雇した後に沢山(たくさん)買った。
沢山と言っても今あるドレスに比べたらまだまだ少ないが。
なのでこれからも購入をチマチマとしていこうと検討している。
そんな服装を意外そうに見ているシャチは首を傾げた。
「またには庶民の体験も必要だと思って」
(ドレス着るのって神経使うから疲れるし)
結構あれは大変だ。
トイレや座るのも布が分厚くて浮いている感覚がするし碌(ろく)に走れもしない。
長年慣れた部分はあるにしろ、やはり身動きの取れる物を着るのが自分的には好ましい。
「そうですか」
貴族あるあるにありそうな発言を試しに言ってみたら納得してくれたのでそのまま進む。
だが、諦めてはいないのかまた呼び止められた。
「奥様っ。お一人は危険です」
「この姿で誰も私が貴族だと思わないわ」
(それに海賊の妻だなんて誰も気にしないし、関係ないと新聞紙のページをめくるのが人の常)
誰だってニュースに親近感なんて覚えない。
感じるのは当事者か傍にいたか、或いはその内容を知っている者だけだ。
誰も彼もが関係のない事だと記憶にすら置かない。
結婚した時だって、同情されたりしただろう。
けれどそれも他のニュースによって、内容も人々の中では既に遠い記憶へと追いやられているだろうと遠い目をした。
(七武海の妻だから贅沢三昧が出来るか、いいや、しても特に生活は寂しいものだ)
貴族の結婚なんてこんなものだろうと思ってはいたが、やはり相手が海賊だとここまで悪化する。
貴族だってここまで帰ってこない事は滅多にないだろう。
嘘の仮面夫婦だって夫婦らしく装う。
それが、こんな風に放っておかれてしまうのは偏(ひとえ)に自分の夫が海賊という自由人だから。
「どうした」
話し込んでいると元締めげふんげふん。
ローがやってきた。
「奥様が出かけられるのですが、お一人で行くとおっしゃっておりまして」
おい、告げ口とか止めろよ。
ボスはこっちなんだぞ。
いや、雇い主はロー名義なんだろうけど、雇ったのはリーシャだ。
人権くらい守ろうぜ青年。
「一人でか……誰か付けていけ」
「私は一人で行きたいのです。そうだ、丁度良かった。旦那様、バストはお幾つ?」
「………………何?」
聞き間違いをしたという表情で再度聞いてきたローに今度は噛み砕いて言う。
「胸周りの幅はどれくらいですか」
「それを聞いて……どうする」
「今から行くのは所謂女性御用達のお店なのです。旦那様に何かを渡した記憶がないので今回は丁度良い機会ですので買ってきますわ」
「…………何を買うつもりだ?」
凄く危機混濁な声音で聞いてきている。
「あら旦那様ってば、そんなに嬉しいのですか?うふふ……腕によりを掛けて選んできますわ。ああ、大丈夫です。ちゃんとサイズは買ってきます。トリプルAのサイズならきっとありますから……ランジェリーショップに」
ピシャリと言い終えるとズガガーンとローの背後に雷が落ちた。
この世の地獄を垣間見た、と言った顔芸だ。
全くこんな風に反応してくれるから弄び甲斐がある。
良い男をからかうのが楽しいという事を知った頭の中は青春真っ只中なリーシャだった。
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