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アンコールは断固拒否(完結)


だが、ローは怯むなんて事はなく、心底バカらしいと言わんばかりにニヤッと広角を上げた。

「お前の中で俺はどうやら死亡しているらしい」

何を当たり前の事を言うのだろう。
それに、命を打ち捨てようとしているのはローの方だろうに。
ローの言い方に納得出来ぬリーシャは彼をキッと睨み付けて、彼から顔をフイッと背ける。

「お葬式は済ませたよ」

「派手なのを頼む」

「地味なのやった」

「へェ。あいつらは納得していないだろ」

「石積んで終わるだけだから誰も知らないもの」

言葉の応酬にイライラしてきた。
もう止めろと言わない代わりにローを見ずに腕を振り払う。
しかし、グッと引っ張られて寄せられる。
近くになり顔が間近に。
余りの近さにのけ反るとそれも構わず彼は歪ませた口元を寄せる。

「離しっ、止めて!」

声を荒げると彼は漸く言ったなと口にした。
どうせ記憶が初めから無くなっていなかった事なんてバレているだろうし、もういいやとなる。
ここまで来たのなら麦わらの船へ滞在するのだし。
船へ居てもローは歓迎なんてしてやらないもんねっ。

「おい、こっち向け」

「いや」

「何故?」

「貴方の言葉に従う理由がない。命令しないで」

「フフっ、嫌がるから苛めたくなる」

最悪だ。
嫌な男だとしかめる。

「ふん、今の私は麦わら一味の友人になったの。だから私の精神状態はマックスよ」

ローに何をされたって何ともない。
鋼の盾のような、それを持ち物に出来た程高揚感は上がっている。
今までの己は初心者冒険者並みの装備で、心もとなかった。

「無敵?どこがだ」

くくく、と笑ってバカにするので嫌みを言う。
すると、彼は笑うのを止めて真剣な顔になって頬へキスを落としてきた。
どこか寂しげで、悲しげで、悲鳴を上げる前に気付いてしまい、何も言えなくなる。

「酷い隈」

ポツッと言うと彼は嬉しそうに顔を緩める。
会話出来たのがそんなに嬉しかったのかとポジティブに受け取る。
ローはやはり勝手だ。
皆はローの事を想って帰りを待っていると言うのに、当の本人は帰らないつもりという体たらく。
人の心を弄ぶも同然の身勝手な行為だ。
そんなに引き離して関わるなと思うのなら初めから仲間など作らねば良い。
だというのに、仲間を作るという矛盾した行動には嘆息しか出ない。

「何故私に拘るの?貴方は今までのものを全て打ち捨てる覚悟で此処に居るのではなくて?」

「?………お前にその話をしたことはない」

そりゃそうだ。
船員達だって知らされていないのだし。

「女の勘ってとこ。で?私に話しかけてどうしたいの?」

「自分でもどうして関わるのか未だに解らないんだ。聞かれても答えられない」

信じられないぞこいつ。
こっちがそれを聞きたいのに知らないとか。
今更それを言うならもっと前に自問自答して、答えを出して干渉してこなければ良いのに。

「あ、そう。なら、もう話しかけないで」

「無理だ」

「即答すんなし」

思わず荒々しく突っ込む。
上品とは真逆な言葉にローは一瞬目を丸くして、きょとんとすると、やがてフッと息を吐く。

「俺は思っているよりもお前に夢中らしい」

次はこちらがきょとん、いや、ぎょっとする番であった。

「ふんっ、白々しいっ」

赤面しそうになる顔を押し隠す。
バレてはダメ。
バレたらローが調子に乗るもの。
頬を擦っていると吐息が耳に当たり、一時の空気を作りだす。
甘ったるいわ!

「バカ離して」

「酷いな」

全く、まっっったく酷い言葉を受けた男の顔をしていない。
余裕ぶってる。

「生きる、と約束して」

一寸の望みにかけて、吐く。
彼の動揺はなかったが、数秒の間。

「無理だ」

分かっていた。
聞く前からそんな答えは分かりきっていた。
夫婦の二年より、恩人の年数が彼を今生かせている事も。

「知ってるわ」

「………そう、か」

白い息を吐き出す様は黄昏ている。

「ええ、知ってるわ」

全てが終わってまだ生きていたのなら、その顔に向かって言う言葉も、決まっている。





『そらみたことか!』ってね。



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