ウェディング1
とある島、そこはウェディングの最も盛んな場所として有名だ。
仕方なく、とローは嫌な顔をしながらもログポースを貯めねばならないので立ち寄るのだと言った。
勿論リーシャはもろ手を上げて賛同した。
やった、日々の行いの良さにお天道様が気をきかせてくれたんだ。
緩む頬は隠しきれず船員達から良かったなー、と緩いエールを貰った。
なにを言っとんだこいつらはとじと目になった。
女心を一ミクロンも理解してない。
リーシャがこんなに喜んでいるのは夢の結婚をお前らの船長にぶっ潰されたからだよ、なんて、言う意味もないな。
言ってもどうせ許してあげろよとなに目線だと罵りたくなる回答しか帰ってこない。
断言してやる。
この船員達は海賊であるが完璧に宴を楽しむタイプだ。
繊細で配慮に欠けたことしか言われまい。
唯一言ってくれるとしてもそれはそれで言われたら殴っちゃいそうな頭脳派なローだけだ。
きっと「お前が言うな」と熱いパトスが砲撃となってこの船を襲う。
と、つらつら考えている間に島に着いたので早速向かうことにした。
が。
「え?なんで来るのです?」
「おれもこっちに用事がある」
「え?あっち行って下さる?」
びっくりな言葉に苦虫噛むの巻き。
「買ってやる」
なんの脈絡もない。
呆気に取られていると、ローが先に行ってしまう。
リーシャの手を引っ付かんで。
半ば引きずられていると過言ではなく、それをみたカップルの男の方が三度ほど大魔王から救おうと試みてくれたが魔王の眼光によりその勇気が表に出ることはなかった。
あーあー、今彼女の好感度激下がった!
100の愛情があるとすればマイナス40は下がったな。
女から助けられないモヤシが、と心のうちで罵られていることだろう。
ローに連れ回された結果着いたのはジュエリーショップだった。
男が来そうにない所へこさせられて目からブドウが落ちる思いだ。
無理矢理連れて入られてガラスケースの前へ立たせられて一言。
「好きなのを選べ」
とだけ言われ、彼はそのまま壁の横へ刀を持ったまま腕を組んでしまった。
無表情なのでここで茶番を口にする気力もない。
助けを求めようとしても無駄だが、店員はスマイル1万円を輝かせて無言の応答拒否をしている。
笑顔って言葉いらないんだなー。
こちらは笑みを浮かべる余裕もない。
ならば、ここは適当に。
「この中で一番」
店員の鼻がひくりと広がる。
「安いものを」
店員の未来に慈悲はない。
見捨てたのを忘れるわけがなかろう、バカめ。
それに高いから欲しいとは思わないので無くしても心が痛まないものが好ましい。
高すぎても絶対に付けない自信がある。
ガラスケース前でがっくりした姿をしている店員を見送る。
お持ちしますと言われ待機するとローがマスターソースとケチャップをかけたような顔をしていた。
「ちゃんと選べ」
わあ、スパイシー。
「選んだ結果です」
しんなりと頷く。
だが、納得していないのかムスッとしている。
「なら、貴方が選べば済んだ話では」
男はキツく睨んでから店員の持ってきた宝石付きの指輪を、ぶんどるとお金が詰まった袋を投げた。
「あら、渡しすぎよ旦那様。お金は大事にしなきゃ」
店員に投げたものをすかさず先にキャッチしてしっかり金額分だけを渡す。
店員は貰える予定だった袋を死んだ目で見てから枯れたスマイルを張り付けてまたのご利用云々を言った。
なんて心に残る悲しい音色なんだろう。
という喜劇は置いといてさくっと指輪持ちの旦那の後ろを付いていく。
ふて腐れた空気を纏うローにもうそろそろメインへ行きたいのだが、と述べる。
「おれを乱れさせてさぞ楽しいだろう」
恨み言が溢れたので拭かずに。
「ええ。とっっっても」
ふきんで汚れを拡大させる。
綻ぶ笑顔を見せた途端、刀の方からガチャガチャガチャガチャ、と震えた音が聞こえた。
必須イベント震えるトラ男さんがおいでなすった。
ああ、震えてる震えてるとにやつき、一通り観察するとローを追い抜く。
タッと走れば「おい」と呼び止めてくる。
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