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テンプレ模様3


「おれと離婚してくれ」

「イエスイエスイエスっ」

興奮し過ぎて息が乱れた。
この時を、その言葉をどれ程待ち侘びた事か。
ついについにと手が戦慄(わなな)く。
公開処刑の如く甲板のど真ん中で言われたが、そんなもの気にする必要はない。
これが学園だったら校舎の外の玄関付近、現代であったならファミレスだったりと何故か公共の場という非常識の場所で言われるそれに当然、船員達だって注目している。
結婚しなくても十分地位を確立させているローは別れる決心をしたのだろう。
何となく彼の目が正気でない、濁ったような淀んだ目をしていて、操られている人間に有りがちな生気の無い顔をしていたとしても知らぬが仏。
そこにどんな理由や、言わされているという事実か例えあったとしても、言った事は変えられやしないのだ!
やったやったと過剰に喜び、それを出来るだけ表に出さないように淡々と順序を踏む。
返事が元気過ぎたのは少し致命的だったかもしれないが、ここからが勝負。
いつ正気に戻るのか分からない今、素早く判子を押してもらおう。
生き生きと隠しきれない高揚を全身に感じながら判子を押してもらう為と名前を書いてもらう為に常備三枚ある内の離婚届の用紙を一枚取り出す。

「「「何で入ってるんだ!?」」」

あーあー、船員達の声何て聞こえない。

「ちょっ、待て待て待て!待てっ」

慌てて駆け寄ってくる船員の一人を鬱蒼と眺める。
邪魔だてしてくれるな。

「お、お前が船長の事あんま好きじゃないのは周知の事実だけどよ!でもよ、そんな簡単に決めて良いモン何かじゃ」

「しかし、お宅らの船長は別れようって言いましたけれど?」

反論を正論で返すと物申してきた男が口を噤(つぐ)む。
いやいや、そんなに簡単に引き下がるなら言わないで欲しい。
少し苦笑いが洩れる。
そんな空気の中でまたまた一人の違う男がローに向かって問うた。
余計な真似をしないでいただきたいものだ。

「正当な理由があるんですよね、船長」

少し怒り気味で、信じたくないと顔に書いてある。

「嗚呼」

そのローの問い返しに一層彼等の視線が強くなる。
理由ならまあ、一応聞いておいて損はない。
当然ながらこちらに非があるわけもないが。
あってもないと断言するのは決めている。

「ココロを愛しているからだ」

「え!?」

ローの言葉に反応したのは船員の誰でもリーシャでもなく、ローの後ろに居て気付かなかったココロ本人。
わざとらしく驚愕に目を開いているのが僅かに苛ついたが些細な事だ。
ローに向けられていた視線がココロに向くのは自然な事。
ローはというとココロの方に顔を向けて言わないであろう言葉を吐く。

「ココロ、今丁度お前を如何(いか)に愛しているかを話していた所だ。こいつにも離婚を請求した。ほら、こっち来いよ」

まるでゲームのパッケージの裏に書かれている台詞の「ほら、こっち来いよ」という甘い音。
うむ、操られている。
しかし、都合が良いので無視して進めた。

「では゛トラファルガー゛さん。離婚届を書いてもらえますか?」

「嗚呼」

さっきから返事が棒読み、しかし、無視無視。

「ちょっ、ローさん。皆が見てる前で恥ずかしいよ〜」

いや、お前は取り敢えず目の前で離婚が成立しかけている事に注目しろよ。
普通はそっちの反応が先であろう。
船員達も同じ事を思ったのか冷ややかな目を彼女に向けて刺す。
恥ずかしいとは何の事かと言うと、ローの腕が腰に周り、恋人のように片腕で抱擁されている事である。
腰を引き寄せられているココロは至極恥ずかしそうに言っているが、言葉の割に引き剥がそうとか、抗っている素振りもなく、寧ろ大人しく片腕に収まっているのだから更に船員達の視線が鋭くなっていく。

「っ、船長!目を覚まししてくれよ!」

(よっけーな事を言うなっつの!)

羽ペンをツラツラと動かしている手が一瞬ブレる。
止めるな!そのまま動かせや!

「うっ………」

軽く呻いたのは近くに居たリーシャにくらいしか聞こえない。
頭痛でもするのかな。
洗脳されている人が良くやる仕草だけども、早く書けー。
念じていると再び羽ペンを動かし出す手に安堵。
そうそうそれで良いんだよ。
内心ほくそ笑み、事の流れに気持ちが上向きになる。
ヒロイン(厄災だが)が来てくれて本当に良かった。
正気に戻ってもローから別れを切り出したという現実は凄く証拠になるし、誰も反対等出来ない。
これをローがぼんやりしている間に出してしまえばこれで縁も含めておさらば。
書き終えた紙を上から順に書き漏れが無いか確かめて大切に懐へ入れる。
周りはオロオロするばかりで成り行きを見ているしかない。
別に止められても困るので大いに助かる。
紙を大切にしまうと次は荷物の整理。
出ていく準備を整えて三日後に着く島へこの離婚届と共に出す。
何と今日は良き日。
上機嫌で「離婚成立です」と手を合わせてニコリと微笑む。
それに対してココロはやっと「え?離婚したの?やった、じゃあ今日からローさんとの仲を裂く邪魔者は居なくなったのね!」何て空気の読めていない発言に船員達は殺気立つ。
人と人が別れて悲壮感を口にしないのはいくらなんでもマナー的にも人間的にも可笑しい。
船員達が「何言ってんだてめー!」と現に彼女に怒鳴りつけても仕方のない事なのだ。
本当、少しは黙れば良いのに。

「だって、ココロ……ローさんからこの人の事何て好きじゃないって聞いたんだもの」

良い歳した女が自分の名前を言うなんて、頭緩いな。
今時そんなのアイドルや芸能人がキャラ付の時にしか聞かないんですけど。

「それが何だって言うんだ?本人を、妻を目の前にして褒められた言葉でない事くらい常識的に判断も出来ないのか?」

シャンバールが腕を組んで咎めた。
常識ある淑女の振る舞いではないよねー、確かにー。

「シャンバールの言う通りだ。お前、ちゃんと勉強してきたのか?俺だってそんな事、デリカシーのない言葉なんていくらなんでも言えねーわマジで」

引くわー、と最後に言い出した男に次いで船員達が言いたかったのだろう事を吐き出し始めた。
退場しても良いですか?
この場が混沌としてきた。
すると、ココロがその場の空気に萎縮の様子を見せ始め、ローに怖いと泣きついてから空気は変わる。
何とローが刀を抜いたのだ。

「ココロをキズツケルヤツハ、許さねェ」

台詞的にも精神が異常をキタしている。
ローが船員達に攻撃をするという致命的な事を仕出かす前に素早く動く。
ローの事を思ってではない、船員達を思っての行為である。
それに、元夫だからもう開放感が凄くて何かをしたい気分なのだ。
海桜石を練り込み、制作を特別にしてもらった魚取り網をローに向けて後ろから放つ。
後先考えずにやったから余計な物(ココロっていう優越感に浸っていた女)も一緒に掛かったが、構わず絡めて取る。
ココロが喚いていてて煩い。

「何なのこれ!?出しなさいよ!痛い、痛い!」

引き摺った程度で痛がるなんて海賊の恋人は無理なんじゃなかろうか。
飽きれながらズルズルと引く。
船員達も今何をするべきか分かっているのか、戸惑いながらもローから網の目を目掛けて刀をスッパ抜き彼から引き離す。
海桜石の鎖でグルグル巻きにされたローを横に放おってココロを手錠で済ませる。
彼女は一般市民に引けを取らないひ弱さであるのでこれで十分。
ローはもう能力を使えないし、何らかのせいで脳もマトモに機能していないので脱走なんて更に無理だろう。
二人を引き離すように違う部屋へ閉じ込めて、となる予定だったが船員達の強い希望により、各自一部屋数人に割り当てられている寄宿部屋のような大部屋へせめて寝かせてあげてくれと頼まれて、渋々許した。
攻撃、危害を加えようとしたのによく一緒に寝られるな、とある意味その勇姿に免じたのだ。
そして、肝心のココロの方だが、餓死させようという意見も然ることながら、どっちにしろご飯の面倒はリーシャが行うと自ら言った。
彼女に対して警戒せねばならない事があるからだ。
それは、ローに行われた何らかの精神的、思考、判断力を低下させる媚薬というものに効果が近い事をやった可能性。
リーシャは此処で更に夢小説で養った教訓を活かすのだ!



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