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テンプレ模様


船に居ると暇過ぎて発狂しそうになるから、出来るだけ交流も兼ねて魚釣りとカードゲームに積極的に参加している。
今日は晴天なのでクルー達は我先にと甲板へ行き、強くなる為に鍛錬や修行を始めた。
勿論、そんな事をしても強くならないリーシャはポツンと一人になるので、暇な時間を埋める為に考えなくても良い事を考え出す。
自分は謂わばガラの悪い性格の女で、貴族という地位を持っている典型的なこの世界での勝ち組。
悪役令嬢とゲームや小説に出てくる言葉を当て嵌めて引用してはいるものの、もう自分は悪役でも性格がネジ曲がっていない。
真っ白の綺麗な令嬢である。
そもそも、悪役悪役と言われている子達は大体ヒーロー、又は攻略対象者の何らかの関係を持っている事が多い。
そんなヒーローにちょっかいをかけるなんてあまりにも理不尽で横暴なのではないか。
しかし、ゲームでは婚約者という人間はあまり見かけない。
横取りに近いものならば精々が幼馴染くらいだ。
しかし、それでも抜け駆けにも等しい。
合コンで一抜けレベルであろう。
それと、そもそもこの世界は漫画であって、ヒロインというのが居ない。
誰の邪魔をするというのだろう。
この船にはヒロインっぽい同性すらいないのに。
なんて考えていたからだろうか、その思考を嘲笑うというか、おちょくっているとしか思えない事件が起こった。
これはあんな事を長々と考えたのがいけなかったのか!?

「大変だ!大事件だぞリーシャっ!」

慌てて食堂へやってきたシャチの様子に首を傾げながら振り返る。
ローも居たからか居住まいを正す。
そんな事よりも気になるから要件を言って欲しい。
大変ならもっとそれっぽくすれば良い物を。
残念系な男に内心溜息を吐いているとローが足す。
そりゃそうだ、彼だって何があったのか知りたいだろう。
シャチはそれに今思い出したという、うっかり仕草をして絶対忘れてなんかいないんだろうなとノリの良さを感じていたが彼の為に黙っておく。
ボケというのは暴いてしまうと途端に虚しくなるし恥ずかしくなるものなのだ。
それを知っているリーシャは生暖かい目だけを向けるだけに留めた。
それも傷付けるだろうという言葉は誰も言わなかったのでこれで合っているだろう。
シャチの慌てている原因を聞くと脳内にテンプレやお約束という単語が流れる。

「んで、今ペンギン達が引き上げてます。このまま船内に入れても良いですか船長」

彼の話しを纏めると空から何かが落ちてくるのが見えて、目を凝らすとそれは何と人で。
慌てて飛び込んだ船員が浮上してくると今度は女だったという事実に周りも動揺する。
見張りはどこにも船は見当たらないし、空を見上げても何もない。
何もない所から落ちてきた可能性と能力者の可能性があるという指摘を提示。
というか、それは……トリップだー。
転生もここには紛れているのにトリップも混ぜてくるなんてなかなかお目にかかれない設定である。
もしかして、この世界は誰かが二次創作として考えたパラレルワールドの可能性もあるという訳か。
という事は、こういうお約束の場合、元からこの世界に居る、この世界で生まれたリーシャが悪者になる(頼まれてもならないけど。でも、離婚出来る可能性があるなら……)可能性もある。
嫌なヒロイン(トリップしてきた人)だったらどうしよう。
そんな人に此処から追い出されるのも癪に触る。

「入れる訳ねェだろ」

ピシャリという効果音が尽きそうなくらい軽快な言葉。
この展開はもしかして出会う事も難しいハードモードだろうか。
だとしたらヒロインドンマイだ。
手引しないのかと疑問に思うだろうが、面倒臭いというのと、ヒロインならば底辺から這い上がってこられるだろうという期待を込めてそれはしない。
それに、良いヒロインならば確実にトリップ体験者から邪険にされる事間違いなしだ。
トリップしてきた女が横取りのシナリオはやはり二次作品に多くある展開で、殆ど悪役側が社会的にか生命的に消されるのも良くある。
けれど、そこでふと考える。
小説では婚約者から奪う場合、どんな理由があろうと婚約者の居る相手から奪うというのは何事にも変えがたい不貞なのではないか。
たとえそこに背徳的関係がなくとも、チョロチョロ動き回り男の気を引くような真似をするヒロインがやはり原因を作るから、色々アウト。
嫉妬しても、されても仕方のない事をやっているのだ。
そりゃそうだろう。
女が取られる相手を好きならば尚更男の心の浮つきに敏感になって、先に好きになったのに、婚約者でもないのに、取られたくないと思うのは当然。
婚約破棄という展開についてもかなり問題がありありで、婚約破棄をする理由がどれも男に過失があるとしか思えない。
嫉妬してしまうくらい女の事を放っといて、仲睦まじく他の女と居た訳で、ちゃんと婚約者を気にかけてケアを怠らなければ疑われたりする事もなかった筈。
そういう理由を考えて、自分はやはり悪役が全て悪いわけではないと結論付けた。
そもそも社会的に抹殺するのもやり過ぎなものもある。
婚約者が取られそうになっていて、しかも、女の婚約者には見せない素顔なんてものをヒロインに見せていたと知ったら更に傷ついて誰だって自暴自棄になると思う。
まあ悪役の存在についてはここまでにしといて、ロー達が立ち上がるのを見送る。
只座っているだけだが。
その様子にローが首を傾げて行かないのかと言う。
今から尋問するらしい。
確かにいつものリーシャならばなんらかのリアクションを起こすところだが、今出ていくとややこしくなる気配がする。

「ええ。今回は見送ります。それと、私の存在はバレるまで内密に頼みますわ」

「何か面白い事でもやろうとしてるんなら声をかけろ。俺もあやかる」

「まるで私が気品のない問題児みたいに言うのは止めて下さいませ」

それを言うならば自分達に返ってくる。
何か面白い事をするのではなく、自ずと何かが勝手に起きるだけなのだ。
ヒロイン(多分)が厄介を持ってきたりするのは良くある展開のものだ。
どんなに良い子でも違う海賊に絡まれたりと運に見放さているのか好かれているのか分からないシナリオ。
そんな中でヒロインは相手と恋に落ちるのがセオリー。
だとしたらローと上手く破局に持っていけるかもしれない。
ローとは婚姻しているのでこちらに非があってもなくても相手にされなくなればこちらの勝ちである、シメシメ。
問題は物理的に消されないかという事を気にして、そのフラグをへし折らねばなるまい。
難しいが、やってみる価値はある。
やはりヒロインが良い子かどうかで判断が決まり、方針も決まる訳だ。
部屋で待って、裏でこっそりヒロインの反応や出方を探ろう。
お昼を過ぎている時間だったのでお披露目は夜だろうと考えて、自室に篭もる事にした。



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