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思惑は差程思い通りにならないものだ


手配書を手にルンルン気分で足取り軽く部屋へ向かう。
偶に挟んであったり海兵が撒いているらしく、手配書には事欠かない。
手に入れたその手配書を一度見てニヤニヤする。
何となく察した人はもうお分かりになったかもしれないが、そう、話題の超新星達と嘗(かつ)て騒がれた麦藁海賊団のものである。
彼等が復活するのはまだ先だが、生きている事を知っている身としては活躍を見逃したくない。

「……なんか、私みたいな熱狂的ファンのキャラが居たような居ないような……うーん」

もう、すっかり凡キャラは忘れてしまったのだったらもう思い出さなくても良いか。
そう完結させてせっせとベッドの上に紙を置いていく。
鼻歌が思わず出てしまう。

「何だ、上機嫌じゃ…………、お前……それ」

ガチャッと何のお触れもノックも無しに唐突に扉を開けて顔を覗かせて現れたローはとても驚いた顔をしてベッドに並べられている手配書を凝視している。
というか、色々言いたい事があるが、取り敢えずノックはしろと言う。
冷たい目を向けているとローは気を取り直して改めてこの手配書について聞いてきた。
ノックについては無視されたようだ。
無視されたのにローに構う何てしない。
ツンと横を向いて手配書を庇うように移動する。
するとツカツカとやってきて彼は顎をクイッとして、あのイケメンあるあるお家芸をされた。
心底イラッとしたので振り払う。

「お止め下さい“旦那様″」

「旦那様何だから別に良いだろ?」

「いいえ。良くありませんわ」

この令嬢口調は最早癖になってしまったので、直ぐにパッと口調を普通に変えられない。
ムカムカと青筋を浮かべつつ睨みつけると彼は楽しそうにクスッと笑う。
可笑しい事なんて言っていないし、此処で笑う何て空気読めよ、と思う。
というか、手配書の事はもう忘れてさっさと部屋を出て欲しいのだが。
念じていても出て行く訳がなく、ローはベッドの上をまた見始める。
そして、何か言いたそうに口をへの字にしている。
言いたい事があるのなら言えと言いたいところだが、何を言いたいのか既に何となく予期している身としてはあまり口を開かせたくない。
というか、さっさと出て行ってくれないかと何度目の思いを感じつつも知らんぷりをして手配書に向き直る。

「もしかして、前々から入りてェと言っていた理由は……好きな奴が居るからか?」

(……嗚呼、そう捉える訳ね)

どうしてそう飛んでいるのかと飽きて溜め息を吐く代わりに嫌味を言う。

「あらあら。旦那様は私のお言葉を覚えてらしたしたのですねぇ。すっかり忘れているのだと思っていました」

嫌味な顔をして嫌味な雰囲気で言うとローはそこで眉を顰めてギュッと眉間に皺を寄せる。
とちらに反応したのだろう。
嫌味か、覚えていたけれど再び言われた事か。

「別に最初から覚えてる。だからと言ってあの麦藁海賊団に入りてェ何て……箱入り娘であるお前には、あそこは難易度が高すぎる。あそこは政府すら敵に回す事を厭わない」

「貴方だって、政府に取り入って何を考えていらっしゃるのかしらね……きっと麦藁海賊団と全く違わない事を考えているとお見受けします」

「……こりゃァ、随分と馬鹿げた邪推をされてるらしいな」

そう言って口を大げさに歪めているけれど、内心鋭いなこの女、とでも思っているに違いない。
ローの計画も過去も知らない筈のリーシャがパンクハザードとドレスローザについて知る訳もなく、何故そう思うのだろうと頭の中の混乱が透けて見える。

「この一年……貴方は只単に七武海に入ってその生温い制約と鎖を甘んじて受け入れるように思えませんでしたわ」

こんな風に言われればローだって満更でもないだろうと考えておいた理由である。
食らえ『正論』!
どうだ、我に死角等有りはしないのだっ。

「成る程な……貴族にしておくには惜しい頭脳だ」

「海賊の妻ですけどね。勝手に結婚させられましたからね。拒否権の無い結婚届けを押させられましたからね」

「……そんなに鬱憤を溜めてたのか?かなり今更過ぎるが……」

「前々からたっくさん溜まってましたの……これからは出し惜しみ無しのブースト込みで行きますわ」

ふふふ、笑み付きで言うとローはムスッとしてから再び手配書を見る。
まだ話しは終わっていないようだ。
こっちもこっちでムスリとなる。
それはそうと、と話を変えてローの気を紛れさせようと考えた。
そんな事は分かっているのかローは話題変換させないようにとジリジリ近寄ってくる。
鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離である。
追い込まれている気持ちになるのは気のせいだろうか。
思わず汗が出そうになるけれど、我慢する。
此処は耐えろと歯を噛み締めて笑顔を浮かべるとローはニヤニヤと笑う。
何と憎たらしい顔なんだ。
ムカムカと胃が縮まる気持ちで関係ない事だと突っぱねて見る。
これでどうだと息を吐くと彼は益々不機嫌になっていくので部屋の空気が段々と悪くなっていく。
そうなったら最終的に秘技を使わせて貰おう。

「旦那様。私少々気分が優れませんのでお休みさせて頂きますわ」

これで出て行ってもらえる口実が出きたと笑う。
外面はあくまでも頼りない弱々しい女であるが。
ローは、なら風邪かどうか診察してやるよと言い出すが、そんな隙は与え無い。
憎たらしくなるのは仕方ないとして、問題は手配書の件を逃れられそうにないという事だ。

「お医者にわざわざ見ていただくようなものでもありませんわ」

にこやかにノーと言うと、彼は逃さないとばかりに、また先程のように同じ事を聞いてくる。
だから、好きな男など居る訳もないので居ないと言って安心させてあげるしかない。
やっと少し間を開けてくれたので遠慮なく離れる。
リーシャはササッと手配書を集めて腕に抱えるとローの視界から守るように抱き締める。
決してこれには触れさせない。

「おい、それをどうする気だ」

ローが不機嫌そうにしていても素知らぬ顔で飾るんです、と当たり前の事を返す。
部屋に飾るのが目的で九枚集めたのだから。
早くローがパンクハザードに行かないかと期待して会えますようにと祈る。
別にローが会えなくても自分が会えるのならどっちでも良い。
ローが構われなくなったのがそんなに嫌だったのか、こちらに付いてくる。
張っているのを助けてくれる訳でも手伝ってくれるわけでもなさそうだ。
というか、いつまでこの話しを続ければならないのかと飽きてきた。
そろそろちゃんと眺めて楽しみたいのだが。
ローにそろそろ出ていってもらっても良いかと訊ねると彼は当分この部屋に居ると言って設置してあるソファーに座る。
いやいや、出ていって欲しいのたがと思いつつも、邪魔しないのならば良いかと放置決定だ。
そのまま大人しくしていてと念じてから至福の時間を堪能。
可愛いからカッコイイまで何でもありな一味はサンジの手配書を除くとそれぞれ癖がある。
というか、彼に只々居座られるのは初めてかもしれない。
何故長居されるのか、恐らく監視の意味もあるのだろう。
なんて素直で無い居座り方をされているのだと笑いそうになるものの、耐える。
素直に言えば良いののに。

「もう五分くれェ眺めてるが、飽きて来ないのか?」

全然このくらい余裕である。
彼の言葉を否定してからまた手配書を見始めると耐久レースのような雰囲気が漂ってくるのでローの仕業だなと思う。
そんなに待てないなのなら此処に居続けなければ良い。
ローは物好きな奴、と不機嫌そうに、面白くなさそうに言う。
確かに同じ世代としても賞金首だった海賊としてもあまり愉しくないと思うが、ローの目的はワンピース、秘宝ではなく、とある男の為に本懐を遂げようとしているので、競う意味が分からない。

「旦那様。そろそろ部屋から去ろうと思いませんの?」

「………前から思っていたが、その令嬢言葉はわざとか?癖か?」

「癖ですわ。人生の九割はこの口調で生きていましたので………急には変えられません」

こっちだって早くこの口調を改めて普通の話し方をデフォルトにしたいが、なかなか切り替え出来ないのだ。
無理矢理変えようとすると僅かに時間が掛かる。
少し考えてから言うのは当然の事だ。
ローが部屋から出ていかないのならば、こちらから出ていこうと、手配書を集めて抱えるとそそくさと扉へ向かう。

「え、あっ」

パッと手を引かれてその反動で手から手配書が抜けるとハラハラと頭上に舞う。天井とローの頭が視界を埋めていて、彼が近付いてきて顔が視界を独占。
息を詰めて頬を叩こうとすると手を止められて絡められる。

「退いてください、節操無し」

「くくく、酷ェ言いようだ」

そう言う割には笑っている。
というか、何故押し倒すなんて真似をしたのだろう。
聞いてもどうせ欲情したからとか何とか言うに決まっている。
付き合ってなんかいられない。
早く退いて欲しい、今後の時間も予定(手配書鑑賞)が詰まっていて忙しいのだ。
手を取られたので噛み付いてやろうと歯を見せてカチリと鳴らす。
女として褒められた行為ではないが、やるしかない。
この男には常識が通じないのならば獣道の方法でやる。
今の自分にはそれが出来るのだから、躊躇しないで突撃。

「!?」

唐突に目を見開いて肩に噛み付こうとした令嬢の行動を察したのか避けてしまう。
流石は七武海だ。
瞬発力も並外れていくものなのだなと感心。
肩を外してしまい舌打ちをする前に、違う箇所を狙うとついにローが退いた。

「令嬢じゃなくて猛獣だな」

「あらあらまあまあ。海軍の犬と呼ばれている貴方に言われるなんて光栄ですわ。ふふっ(ざまあっ)」

内心せせら笑っているとローが再度近付いてきたので咄嗟に後ろへ下がって小型のビーカーを投げる。
海水入りなので能力者には効果抜群であるが、当たればの話しだ。
ローはそれを直ぐに理解したのかビンを避けてしまうので第二の追撃をお見舞いする。
彼は丁度良い所に立っているので罠が仕掛け易い。
これで追い出せれば手配書を見られる。

「チッ、地味にやり辛ェ」

「なら、とっとと、一昨日、来やがれっですわっ」

ローにヒュンヒュンと投げていると相手はついに撤退した。
男、旦那、それに勝てたのはかなり優越感を感じる。
これでじっくり見られると地面に落ちた手配書に目を向けると唖然となった。

「なくなってる!」

直ぐにローが回収したんだと脱力すると、負けるものかとローの部屋にダッシュして捕まる未来は予測出来なかった。



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