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私、令嬢。今、貴方の後ろに……。


暇暇だと連呼していたシャチに業を煮て良くある暇つぶし用の提案をしてあげた。
提案する前に令嬢なんだから何か特技あんだろと言われたから偏見の罰として魚取り網で捕らえて吊してやった。
上を見上げて彼に「ほら、ご所望の特技だよシャンデくん」と過去の偽名を使って笑ってあげたら泣いて謝ってきたのでまあ下ろして上げた。
で、話しは戻すとその暇つぶしは怪談話。
という奴である。
コックリさんとかは危険なのでしない。
あれを気軽にすると案外ヤバいというのはそれなりに有名な話しであろう。
怪談話ならば船員達も参加しやすいだろうしと提案すると傍に居たベポが皆を呼んでくると嬉しそうに部屋を去ったのだが、どこに集める気なのだろうか。
そして、何人集める気なのか。
もしかして食堂…………いくら何でも場所を選ばないと雰囲気も何もない。
一旦集まってもらってまた移動するしかない。
人数も数えて場所の広さを査定しなければいけないだろうし。
少し暇を潰すつもりが考える事が増えて今日は忙しくなりそうだと内心歓喜。
シャチも暇だったらしいが、陸ではない船の中では誰でも暇である。
つまりはリーシャも暇であったという訳だが、別にそれを言う必要も無い。
暇と言って何か起こった時に怒られるのはシャチ一人で十分だろう。
狡いけれど生き残る術なので致し方有るまいと黒い笑みを浮かべた。
歳を重ねるとずる賢さが出てくるんだなあと思いつつ、ローはずる賢さだけは高いので見習おうとそこだけは認める。
ベポが連れてきた(かき集めた)のは全部で八人。
何てこった、ローと見張りを抜いてもほぼ全員と言っても過言ではない人数だ。

「ここより広い……二番目の部屋の場所を知っている人は居る?」

六人も居て、プラス四人なので十人である。
聞くと出てきたのは倉庫、又は宝や酒がある場所と言われたのでそこへ向かおうと言うとベポが嬉しそうに蝋燭も!と言う。
ベポ、ノリノリであった。
アザラシを食べたとかいうグロ系でなかったら良い。
蝋燭を持って大移動すると輪の形に座る。

「んじゃ、始めるぞ……スタートはお前からな」

シャチが取り仕切り出して指名したのはリーシャで、それに抗議する。
暇と言うから催して上げたのに恩を仇で返そうとしている不届き物が居るようだ。

「普通シャチだと思う。暇ならそれなりの順序って奴を示してよ……先輩様」

新入りらしく言うと彼は新入りだから一番初めなんだろと返してきた。
仕方のない我が儘だ。
どっちが貴族みたいなのか分かったものじゃない。
此処は此方(こちら)が大人になってあげようではないか。

「それじゃあ……」

蝋燭を顔の近くに寄せて雰囲気を作る。

「とある女の身の毛もよだつ、実話」

薄く笑って目元は軽く俯かせてから声は低く。
それが上手く出来ているようで誰かの喉を上下に揺らす音が僅かに聞こえた。
君達怖がるのが早いよ。

「ある朝、いつものように目を覚ました女はいつものように一日の始まりを開始させて」

ジジジ、と蝋燭の蝋が火で溶ける音がする。

「いつものように部屋を歩いたの」

この話しは実話。

「そしたら、足が躓(つまづ)いて、転けて頭を強打。そして、気絶した」

その恐ろしさ、一押し。

「頭の痛さに目が覚めると、怖い事に気が付いたの。崖から飛び降りたって足りない事実を知ってしまうわけ」

「それ、どんな事だよ」

怖々と聞いてくる一人に待ってましたと眼力を眇めて一呼吸。

「その事実っていうのはね」

ごくり、また息を呑む音が聞こえて口角を弓なりに上げる。




「その女は王下七武海の妻にならされていたの」




「…………………………………………って、おいいい!!!!」

「それお前の事だろーが!それ違う!」

「怪談じゃねーしいい!」

「確かに冷や汗ものだけどな!でも、そういう話しを期待してたんじゃねェよォー!」

その周りの反応に少しガッカリだ。
共感してもらえるかなー、と思っていたのに。
ふてくされると船員達は冷や汗を拭う。

「あ、皆汗出てる!これ立派な怪談じゃない?ね?ね?」

指摘するとそっちの汗じゃない!とまくし立てられる。
とか言いつつも楽しんで聞いていたのできっとそれなりに怖かったと思っているに違いない。
リーシャは皆に想像してみてよと語る。
王下七武海、そう、たった一人の女の七武海で、確か名前はボア・ハンコック。
彼女の夫になってしまっていたらと想像させる。

「…………って、例えが駄目かこれ」

確かハンコックは絶世の美女で、絵も見たことがあるから美しさは絶景で最強。
やはり、それを想像した船員達が鼻の下を伸ばし出して呆れた。

「…………………………………良い」

周りの男達の全ての声だ。

「はいはい、私が悪かったから皆、叶わない夢から覚めて覚めてー」

パンパンと手を叩いて意識を戻らせようとするけれど、それでも戻って来ない腑抜けた奴らが居る。
そんな人達には魚網攻撃で覚まして上げると「ぎィえええ!」と現実に帰ってくる声。

「じゃあ、改めて怪談始めるよ」

全員が帰還したので仕切り直して大勢を整えてコホンと一つ咳払い。

「じゃあ、今度は難易度が高い怪談………………」

「どうした?いきなり黙り込んで」

「外科系の男の気配が近くにしたような気がして…………」

そう言うと船員達は笑ってなんだそれと言うけれど、この鳥肌は嘘を付かない。
本能が察知している。

「後ろに這い寄る外科医…………なんてね」

そんなジョークに周りは笑う。
面白いと笑う。

「…………こんなとこで何やってんだ」

「「「ぎゃあああ!外科医!」」」

「いや、外科医だけど、船長だ!」

「マジで当たった……リーシャすげーよ」

来る事を予知した事に驚いた一人に言われてにっこりと笑う。
ローが真後ろに居たのは今知ったが、その予感が的中。
船員達は驚き、ローはその反応に額に皺を寄せる。
確かに騒がれる理由も無いのにオーバーリアクションだ。
ローが来たというだけで輪の間を少し開けて座れるように距離を詰めていく。
ロースキーが本当に多いな此処は。
アウェイを少し感じている間にもローは居座るつもりなのか座る。
帰ったりこの集まりに興味なんて無いと思っていたので残るだなんて少し意外であった。
一人増えた程度で何かが変わる訳も…………ある。
ローはちゃんと怖がってくれるのか。
怖がらないだろうけれど、揚げ足を取る真似をしないか不安だ。
疑っている目で見ていると船員達が何をして此処に集まっているのかを説明している。
粗方理解したのだろう男は「怪談ねェ……」と無表情。
下らないと思っているのか興味を感じているのか相変わらず分かり難い。
やる事をやろうと咳払いして蝋燭を手に持つ。

「前髪焦げるからもっと距離を離せ」

(…………やり難いなあ)

さっきは誰も指摘しなかった事、しかもこちらの身を案じる内容に気が飛散しそうになる。
雰囲気を大切にしてもらいたい。
こういうのは空気が大切で命なのに。
少し蝋燭の距離を離すと唇を湿らせた。

「唾液で唇を舐めると乾燥した時に荒れるからリップクリームを塗れ」

「っ…………、ちょっと宜しいですか、旦那様」

(だから空気読めよ!)

「何だ?」

「今から怪談を話すので関係の無い言葉は謹んでもらえます?今から怪談話します、か、ら!」

青筋を立てないように笑みを作り頼む。
ローは意味を理解してくれたのか口を引き結ぶ。
やっと再開の目処(めど)が立ったので改めて今度こそはと蝋燭を抱え直す。
次の話しはちゃんとした国民に有名なホラー。
決して、シャチとペンギンの隠密生活を赤裸々に話すなんて事はしない。
まあいつかネタとして語らせてもらおうとは思っているが。
本人達に全力で止められそうだから心の中で温めておく。

「普通の一軒家に住む男のお話です」

少し記憶が曖昧なので細かい所は適当に自作で設定を言っておく。
この世界は所謂電伝虫なので電伝虫を持っているという設定でいく。
男の家にある日、ブルブルブルブルと電話が鳴って、それに気付いた男が電話に出る。

「『私、メリーさん。今、どこに居るの?』と聞かれたから、家に居る、と男はつい口にしてしまうの」

何故口にしたのかも曖昧なので適当にやる。
家に居ると言うと女の子の声は今からそっちに行くわ、と言って一方的に電話を切ってしまう。
切れた後に誰だったのだろうと遅い疑問を抱く男。
また電話が鳴って受話器を取ると先程の女の子で。

「『私、メリーさん。今、貴方の家の前に居るわ』と言われるの…………そして、また切れて、また掛かってきて『今、玄関の扉の前に居るの』と言われて、そこで男の背中に冷や汗が伝う」

船員達が真剣に、目や身体、はたまた拳を強ばらせているのが見えてシメシメと優越感に浸る。

「また電話が掛かってくると……リビングの扉の前に居ると言われ、男は自分から電話を切ってしまう。けれど」

それでも掛かってくる電話。
取りたくないけれど、好奇心と探索心、知りたいという気持ちのせいでまた受話器を取ってしまう。
いつの間にか外は雨が降っていて、カーテンを締めていないのに薄暗くなっていた。
あまりの恐怖に男の顔は汗が滴っていた。

「受話器を取ると耳に声が聞こえて、でも、受話器越しじゃなくて…………二重に聞こえたの」

『私、メリーさん。今、貴方の後ろに居るわ』

「男の恐怖心がゆっくりと振り向かせるの。後ろを見ると……一週間前に捨てた筈のビクスドールが真っ直ぐ男を見抜いて、人形なのに、口は不気味なくらいに笑っ」

「「ぎゃああああああ!!?」」

ていた、と言い終わる前に叫ばれた。
ローがその煩い声の合唱に耳に手を当ててシャットアウトしていた。
リーシャもその音量にビクゥ!と肩を揺らしてしまう。
どうやら怪談は成功らしい。
ベポも怖がっていたし、シャチも周りもガタガタと震えていた。
構造のオリジナル八割だったけれど、上手く話せて良かったものの。
此処って、海賊船……だったよね?
後日、船員の一人の肩に埃が付いていたから肩に付いてるよ、と言ったら「うわああ!俺メリーさん捨ててねェよォ!」と泣かれた。
いくらメリーさんだって、異世界に出張して海賊にホラーを体験させる程ハイスペックじゃないと思います。



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